演奏レビュー

日時

8月16日(木)2時34分~3時34分(水曜深夜)予定
BS日テレ 8月25日(土)朝7:00~8:00予定

8月放送プログラム

ヘンデル:歌劇〈セルセ〉 から 「オンブラ・マイ・フ」
ロッシーニ:歌劇〈タンクレディ〉 から 「おお祖国よ」
ライマン:歌劇〈リア〉 から 「間奏曲~エドガーのアリア」
ライマン:歌劇〈メデア〉 から 「ヘロルドのアリア」
ヴォーン・ウィリアムズ(マーティン・カッツ編曲):「オルフェウスがリュートをとれば」
「アメイジング・グレイス」(日本語歌詞:岩谷時子)
モーツァルト(ブゾーニ編曲):歌劇〈ドン・ジョヴァンニ〉序曲

指揮者
沼尻竜典
カウンターテナー
藤木大地

(2018年5月10日 新宿文化センター 大ホールにて収録)


【8月の演奏・聴き所】
音楽プロデューサー 新井鴎子の演奏レビュー

新井鴎子プロフィール
読響シンフォニックライブの構成を担当
クラシック音楽のコンサート・テレビ・ラジオ番組の構成を多数手掛け、長年にわたりその楽しみや魅力を親しみやすく伝えてきた。
音楽祭のディレクターやオペラ・ミュージカルの脚本、執筆活動など〈クラシック音楽〉の分野で幅広く活躍している。
現在、東京藝術大学特任教授。

【藤木大地&読響 カウンターテナー特集】
話題のカウンターテナー藤木大地さんが登場。まずカウンターテナー・ソロとオーケストラによる純クラシックコンサートは、かなり画期的な出来事だったのではないかと思います。今回の選曲は、カストラート役(去勢された男性ソプラノorメゾが歌う役)、ズボン役(女性メゾorアルトが歌う男性役)、カウンターテナー専用の役、歌曲(声域指定なし)、アメイジンググレイス(日本語歌詞による)という、ほぼカウンターテナーのレパートリー全部を網羅したプログラムでしたが、これらを休憩なしで続けて歌い切るとは、ただただ敬服、脱帽。ウィーン国立歌劇場に出演して成功をおさめるとは、野球でいえばメジャーリーグに出てホームランを打つようなもの。世界で通用する実力とはこういうものか、と改めて思いました。
特にライマンの「メデア」は藤木さんのために書かれたのではないかと思うほどのハマリ役。裏声から地声までを縦横無尽に使う超絶技巧のアリアは、藤木さんの磨き抜かれた声の技術の見せどころだったと思います。いやぁしかしライマンが40代、70代で作曲したオペラのアリアを、オーケストラコンサートの中で演奏するとは、この2作品の日本初演をした読響だからこそできたのだと思います。
藤木さんはオペラの役に完全没入して歌っているのに、沈着冷静に声を操るテクニックの安定度はまったく1ミリの揺るぎもなく、この憑依と冷静の両立は驚くべきものでした。

演奏者の略歴

藤木大地(カウンターテナー)
藤木大地(カウンターテナー)
Daichi Fujiki
2012年、日本音楽コンクール声楽部門第1位。13年5月にボローニャ歌劇場にてグルック「クレーリアの勝利」マンニオ役に抜擢されてデビュー。続けて同劇場でバッティステッリ「イタリア式離婚狂想曲」カルメロ役で出演、国際的に高い評価を得る。
17年4月、日本人カウンターテナーとして初めてウィーン国立歌劇場にデビュー。
10年に世界初演されたライマン「メデア」のヘロルド役(M.ボーダー指揮)での殿堂デビューは、「大きな発見はカウンターテナーの藤木大地だった。あの猛烈なコロラトゥーラを彼のような最上の形で表現できる歌手は多くはない」(Der Neue Merker)など、現地メディアからセンセーショナルに絶賛されるとともに、音楽の都・ウィーンの聴衆からも熱狂的に迎えられただけでなく、日本人カウンターテナーとして史上初めての快挙として、日本国内でも大きな話題となった。
国内では、大阪フィル(大植英次氏指揮)、日本センチュリー響(沼尻竜典氏指揮)、名古屋フィル、 九州交響楽団(小泉和裕氏指揮)との「カルミナ・ブラーナ」テノールソロでの共演や各地でのリサイタル、また、18年1月に行われたNHKニューイヤーオペラコンサートに5年連続出演するなど、活躍はますます充実をみせている。
17年4月に待望のデビューCD「死んだ男の残したものは」(キングインターナショナル)がリリース。谷川俊太郎氏から「懐かしいリリシズムの新しい目覚め」と評された。
バロックからコンテンポラリーまで幅広いレパートリーで活動を展開する、現在、日本で最も注目される国際的なアーティストのひとりである。
沼尻竜典(指揮)
沼尻竜典(指揮)
Ryusuke Numajiri
びわ湖ホール芸術監督、トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア音楽監督、リューベック歌劇場首席客演指揮者。
1990年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝。ロンドン響、モントリオール響、ベルリン・ドイツ響、デュッセルドルフ響、フランス放送フィル、トゥールーズ・キャピトル管、パリ室内管、ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ響、シドニー響等欧米各国のオーケストラを指揮。国内ではN響を指揮してデビュー以来、これまで、新星日響正指揮者、東フィル正指揮者、名古屋フィル常任指揮者、日本フィル正指揮者、群馬響首席指揮者兼芸術アドバイザー、日本センチュリー響首席客演指揮者を歴任。
95年、自ら結成したトウキョウ・モーツァルトプレーヤーズ(現トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア)と共に、三鷹市芸術文化センターを拠点に活動を開始。「ベートーヴェン交響曲全集」の収録も高く評価された。オペラ指揮者としては97年≪後宮からの誘拐≫でデビュー、近年ではケルン歌劇場、バイエルン州立歌劇場、ベルリン・コーミッシェ・オーパー、バーゼル歌劇場、シドニー歌劇場等へも客演。また、びわ湖ホール、リューベック歌劇場でも数々のプロダクションを成功に導いている。2011年夏にはサイトウ・キネン・オーケストラへデビュー、バルトーク≪中国の不思議な役人≫で成功を収めた。
14年1月にはオペラ≪竹取物語≫を作曲・世界初演、今後も国内外で再演が予定されている。
91年第1回「出光音楽賞」、99年第7回渡邉暁雄音楽基金音楽賞、01年第51回芸術選奨文部科学大臣新人賞、04年第3回斎藤秀雄メモリアル基金賞、05年第46回毎日芸術賞、第23回中島健蔵音楽賞、2011年文化庁芸術祭優秀賞、第61回芸術選奨文部科学大臣賞をそれぞれ受賞、2017年紫綬褒章受章。
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