演奏レビュー

日時

2019年5月16日(木)2:34~3:34(水曜深夜)予定
BS日テレ 5月25日(土)朝7:00~8:00予定

5月放送プログラム

藤倉 大作曲 ピアノ協奏曲第3番〈インパルス〉
(モンテカルロ・フィル、読売日本交響楽団、スイス・ロマンド管 共同委嘱/日本初演)
スクリャービン作曲 交響曲第4番〈法悦の詩〉 作品54

指揮
山田和樹
ピアノ
小菅 優

(2019年1月18日 サントリーホールにて収録)


【5月の演奏・聴き所】
音楽プロデューサー 新井鴎子の演奏レビュー

新井鴎子プロフィール
読響シンフォニックライブの構成を担当
クラシック音楽のコンサート・テレビ・ラジオ番組の構成を多数手掛け、長年にわたりその楽しみや魅力を親しみやすく伝えてきた。
音楽祭のディレクターやオペラ・ミュージカルの脚本、執筆活動など〈クラシック音楽〉の分野で幅広く活躍している。
現在、東京藝術大学特任教授。

【藤倉 大作曲 ピアノ協奏曲第3番〈インパルス〉
(モンテカルロ・フィル、読売日本交響楽団、スイス・ロマンド管 共同委嘱/日本初演)

藤倉大さん作曲の「インパルス」は、小菅優さんのピアノの驚異的完成度があってこその作品。ピアノとオーケストラが互いに「インパルス(信号)」を発し「インパルシヴ(衝動的)」に反応するというのが、「気持ちいい」感覚と間隔で繰り返される音楽。小菅さんのピアノは、もはや楽器の音ではなく、光や雪の結晶そのもの。究極の「抽象」と言えるようなサウンドをホール中に煌めかせていました。わかりやすく言うと、「ファンタジア」の中のミッキーマウスが魔法の棒を振ると光の粉が撒き散らされてあたり一面の景色が変わる、という情景がピアノとオーケストラの間で起こるという感じ。山田和樹の指揮は、この曲の視覚性や色彩感を強調して20世紀フランス音楽っぽくなることをむしろ避け、デジタルに全体を制御していたのが印象的でした。

【スクリャービン作曲 交響曲第4番〈法悦の詩〉 作品54】
スクリャービンの「法悦の詩」は、ここまでやってしまっていいの?というほどの高揚感、膨大感、恍惚感、上昇感、飽和感で音楽が作られ、トランス状態の境地にもっていかれました。その一方で、スクリャービン特有のもやもやした神秘性ばかりが前に出ず、スクリャービンという作曲家が確かにロシアという土壌に根ざしていて、彼の前にチャイコフスキーやリムスキー=コルサコフがいて後にはストラヴィンスキーがいるということも感じさせる指揮と解釈でした。クライマックスでは、オルガン奏者が「マエストロの指示でこんなに分厚い低音を足ペダルで弾ききったのは初めて」というほど、まさに地響きでホールが揺れるほどの圧倒的なサウンド。ロシアの広大な大地から生まれたスクリャービンの音楽というものを改めて感じました。コンサートマスター長原さんの妖しいソロも聴きものです!

演奏者の略歴

山田和樹(指揮)
山田和樹(指揮)
Kazuki Yamada
1979年神奈川県生まれ。東京芸術大学指揮科で小林研一郎、松尾葉子に師事。2009年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝を機に、ヨーロッパでのキャリアをスタートさせた。これまでにベルリン放送響、サンクトペテルブルク・フィル、パリ管、フィルハーモニア管、BBC響、チェコ・フィルなどへ客演。また、小澤征爾の代役として12年のサイトウ・キネン・フェスティバル松本でオネゲルの劇的オラトリオ〈火刑台上のジャンヌ・ダルク〉を振り、17年には〈魔笛〉でベルリン・コーミッシェ・オーパーにデビュー。18年にはモンテカルロ歌劇場で〈サムソンとデリラ〉を指揮して好評を博した。
スイス・ロマンド管首席客演指揮者を経て、現在はバーミンガム市響の首席客演指揮者、モンテカルロ・フィルの芸術監督兼音楽監督、日本フィル正指揮者、東京混声合唱団音楽監督などの任にある。PENTATONE、EXTONなどから管弦楽曲や合唱曲など、多数のCDをリリースしている。
小菅 優(ピアノ)
小菅 優(ピアノ)
Yu Kosuge
2005年カーネギーホール、06年ザルツブルク音楽祭でリサイタル・デビューし、10年には同音楽祭でポゴレリッチの代役を務めた。G.アルブレヒト、小澤征爾、ドミトリエフらの指揮で、ベルリン響、北ドイツ放送響などと共演。18年10月、山田和樹指揮モンテカルロ・フィルと、藤倉大のピアノ協奏曲第3番〈インパルス〉を世界初演して絶賛された。様々なベートーヴェンのピアノ付き作品を演奏する「ベートーヴェン詣」に取り組むほか、17年秋からは「水・火・風・大地」をテーマにした新リサイタル・シリーズを開催中。
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