DASH島開拓史

舟屋 ~骨組み~2013/9/15

舟屋をつくる経緯

2012年の夏、無人島に上陸したときから、開拓の拠点となる「自分たちの基地」が必要だと感じていた。
この島にはどんな基地が最適なのか?日本中であらゆる建物を見てきたTOKIOが選んだのは、ソーラーカーの旅で出会った、京都伊根の海沿いに連なる「舟屋」だった。
伊根の舟屋は、古来より伝わる伝統的な建築様式で、1階が船着場、2階が住居や物置という世界でも珍しい構造。
これなら、舟を納めて、雨風も十分しのげる。海に囲まれた島での生活に、うってつけの基地となるに違いないと確信した。

舟屋とは?

海面すれすれに建てられ、1階には船着場、物置、作業場があり、漁船がそのまま収納できる様になっている。また、2階は多くを居室、民宿といった生活の場として利用する。
伊根には、穏やかな伊根湾を囲むように約230軒の舟屋があり、江戸時代から地元漁師の暮らしに欠かせないもの。
主に土台や柱は椎の木を用い、梁は松の原木を使用。壁には使えなくなった船板の古材を使うなどの工夫が施されている。

立地条件に合った場所

舟屋を建てるには、舟がつけられるよう海に面し、なおかつ地盤の丈夫な土地を探さなければならない。そこで候補地として挙がったのが港跡に面した平らな土地。
しかし、そこは満潮時に海水が染み出し、地盤の強さに不安が残る。さらに、舟を出し入れするには少々急勾配な護岸だった。
そこで、港跡の奥の入り江に候補地を変更。水面に続く緩やかな傾斜があり、土地も平らで安全性も問題ない。また、周りを山と林に囲まれ、波や風の影響も受けにくい好立地でもある。

舟屋の棟梁 尾谷廣志(おたにひろし)氏

この道52年の大工の棟梁
京都・伊根町の舟屋の大半を手がけた

建設の手順

◆石垣

舟屋の基礎となる土台は“石垣"。そのために必要な石は、外枠だけでおよそ300個。
さらに、角があって噛み合いやすい石でなければ頑丈な基礎は出来ない。
そこで目を付けたのが集落跡に残る崩れた石垣。かつて石垣として利用されていたこの石なら、再び石垣として利用するのには最適なはず。
まずは、その石を集めなければならない。集落跡から入り江まで500mの距離をトロッコで地道に運搬。

石を運び終えたら、「野面積み」という積み方で石垣を築く。これは、浜松城を始め、城や日本建築の石垣に用いられてきた石の積み方。
自然の石や、ほとんど加工をしていない大きさと形の違う石を組み合わせて積むことで、石同士が噛み合い、動いたり落ちたりしにくい。しかも、石と石の隙間ができ、水はけも良い。 自然の石や、ほとんど加工をしていない大きさと形の違う石を組み合わせて積むことで、石同士が噛み合い、動いたり落ちたりしにくい。しかも、石と石の間に隙間が生まれ、水はけも良い。
積むときは、石の平らな方(顔)を見えるようにしながら、大小の石をうまく使って座りのいい積み方を探っていく。
だが、形や大きさがバラバラの石をひとつひとつ見ながら、パズルのように組み合わせていくのは至難の業。

まず大きな石で外枠を組み、その内側に小石を詰める“裏込石(うらごめいし)"をして固めていく。
外枠は高いところで3段60cm。ただでさえ高度な技が必要な石積みを安定させるには、外枠となる大きな石を積みながら、同時に内側(中)にも小石を詰めていく。すると、小石が大きな石の間に挟まり、崩れにくく強く閉まった基礎となる。
作業は4か月半を要し、U型に築いた外枠に、6トンの小石を詰めて石垣の土台が完成。


◆柱

舟屋の柱や壁は、島にある廃屋などの木材を再利用したいと、島中に点在する廃屋から杉材や松材など、使えそうな木材を一本一本選び出した。
だが、必要な材木は、柱や梁など、主なものでもおよそ40本。島の中だけでは到底足りず、尾谷さんの計らいで、伊根に残っていた舟屋の古材を頂くことに。
その中でも、椎の木の木材は沿岸部で潮風に吹かれても腐らないと言われるほど丈夫で、長さ太さも申し分ない。
全部で81本の材木を譲り受け、「一級小型船舶免許」を取得した達也が舵を握る台船に積み込み島に運搬。
集まった島と伊根の材木の中で、使えそうなものを精査し、63本を選び出した。

まずは、舟屋を支える6本の長柱(ながばしら)から組み立てていく。
1本あたり約5mの長さが必要だが、それに見合った長い材木を探してみると5本のみ。
あと1本は、太さ強さは申し分ないが長柱とするには短いため、別々の材木を繋ぎ合わせる技“継ぎ手"で50cmほど継ぎ足すことに。
継ぎ足す材木は、同じ椎の柱。太さも近いものを選び、継ぎ方は縦・横・ねじれ、あらゆる方向からの力に強いと言われる「金輪継ぎ(かなわつぎ)」。DASH村で役場を建て直すのにも使った方法。
その加工は複雑で、同じ形の材木を2本、ノミで削り出し、それらを組み合わせた時には隙間があるが、最後にそのすき間へ台形の“込み栓"を打ち込み、キツく噛み合わせていく仕組み。
これにより、2本の材木は左右に押し広げられ、隙間なく強靭に噛み合っていく。

柱を立てるには、骨組みの下で舟屋を支える土台部分が水平でなくてはならない。
水平器を使って、水平を見ながら材木の下に小石をかまし、簿妙な傾きを調整していく。
その石垣の上に全部で7本の材木を敷き、柱を接合する土台とする。


◆骨組み(入り口部分の柱)

完成した土台に、まず、舟屋の入り口部分となる骨組みから立てる。
左右の長柱に2本の梁を渡し、その梁の間を束(つか)で繋いで支えるようにして、舟屋の入り口部分となるH型の骨組みをくみ上げる。長柱と梁は元々別の建物の材木だったが、接合部の凹凸、ホゾとホゾ穴を調整すれば、うまく組み合わせることもできる。
時間をかけて地道に調整し、柱と梁を接合したら、両側からハンマーで叩いて固定する。
そして、このH型が完成したら、ここからは力仕事。DASH村の古民家移築で立てた大黒柱は、土台の石に柱を載せただけだが、今回は柱を土台のホゾ穴に入れて固定しなければならない。
土台のホゾ穴の位置を確認しながら、約5mの柱を立ち上げる作業は、スタッフも含めた総勢14名の男たちで行う大仕事となった。
そして、左右ともにホゾがハマり、垂直に立ち上がったら、一旦、その状態で釘を打って倒れないように筋交いを施し、仮止め。舟屋の骨組み最初の一歩が完成した。


◆足場

苦労して立てた舟屋の入り口部分となる骨組みだったが、その後島を襲った想定外の強風に、あえなく倒壊してしまった。
柱の重さは、およそ450kg。柱を固定する仮止めに少しでも歪みがあれば、島に吹く強風で簡単になぎ倒されてしまう。
そこで、舟屋の周りを囲むように“丸太足場"を組み、立てた柱をそこに固定する作戦。
鎌倉時代には、大仏の建造にも用いられたとされ、DASH村でも、母屋の屋根の茅葺きなど、たびたび使ってきたやり方。

《修理》
強風で倒壊した入り口部分の柱は、特に継ぎ手を施した右側の柱が深刻なダメージを受け、金輪継ぎの部分から完全に折れてしまった。
わずかな傾きもないよう垂直な状態で立て、支えの筋交いも2本、釘でしっかりと固定し、風邪対策は万全と思われたが、その釘も見事なまでに曲がっていた。
さらに、舟の出し入れに好立地の条件が裏目に出てしまい、倒れた柱が満ち潮で浸水。新たな材木を探さなければならない。
折れた金輪継ぎは、長い材木の方の継ぎ手が無傷だったため、短い方だけ作り直し、再び一本の長柱として再生させる。
強度を保つため、材木から同じ部材である長さ1.5mの椎の木を選び、金輪継ぎに加工。元の柱とも上手く噛み合い、最後に杭を打ち込んで、2度目の金輪継ぎが無事完了。

足場の組み方は、はじめに起点となる丸太を立て、そこに次々と丸太を固定していく。
固定するのに使うのは“番線"というワイヤーと、それを締めるための道具“シノ"。
丸太が交差する部分に、番線を巻きつけ、シノで引っ掛けながら巻き込み、締め上げていく。
丸太はそれぞれが支え合うように組み、番線の柔軟性であらゆる方向からの衝撃も吸収する。
転倒防止になる筋かいも固定し、足場をさらに安定させる。
番線は釘と違い、重みがかかっても折れることなくキツく絞まり、取り外せば何度でも丸太を使えるというメリットもある。
組んだ丸太の上には、足場の上での作業に欠かせない足場板を置き、丸太足場が完成。
高さ6m、幅7m、奥行き11m。丸太は82本、足場板36本、番線270本を使った。


◆立ち上げ

骨組みを固定する足場が出来上がったところで、再度、入り口の柱を立てる。
入り口の柱は1回目と同じように、まずは柱と梁をH型に組み合わせる。
これをスタッフ総出で起こしていくが、今回で2回目、材木も限られるため慎重に作業。
今回は舟屋の周りに足場があるため、柱にロープを縛り付け、足場の二階からロープを引っ張り、下からしっかり支えながら起こしていく。
前回と同じように根元のホゾ穴がハマったら、筋交いで仮止め。
今回はさらに、2本の丸太を使って、立てた柱を挟み込むように番線で足場に固定する。
これで島に吹く強風でも倒れることはない。


◆骨組み

骨組みは、H型の入り口部分の柱を起点に、1階部分を順に組んでいく。
舟屋は、船が出入りするため、入口には柱を建てることができない。 そこで、強度を補うために両側に“半間(まなか)"という柱を多く入れるのが特徴。

半間に最適な状態のいい杉材を選び、その先端を加工済みの土台のホゾ穴に合うように削り出す。
これを計6本加工し、舟屋の左右側面にそれぞれ3本ずつ挿し立てていく。

その半間の上部に、桁(けた)という部材を横へ渡すように組み合わせ、桁の先端をH型の柱に挿し込んでいく。

両面の半間と桁を組み終えたら、すでに組んである入り口と反対部分のH型の柱を起こし、桁と固定する。
最後に、骨組みの中で最も大きな約200kgの梁を桁の真ん中にはめれば、四角形となり、骨組みは安定する。

↑TOPへ戻る