しかし、喜びはそう長く続かなかった。
残る53枚を取り出してみると、
太一「ああ、一枚割れてるなあ」
角がすっぽり欠けた瓦が一枚。
更に、深作さんも金槌で軽く打診しながら、瓦を取り出す作業を手伝っていくと、
深作さん「もう一枚割れてるのがあるなー」
また角の部分が欠けてしまった瓦を発見。
再び、不安な表情に陥る太一。
これ以上割れたものがあると、もう予備はない。


結果的に割れたのはこの2枚のみ。
しかしながら、瓦焼きはこれからが正念場だった。
深作さん「この窯だと二度焼かないとうまくいかない」

瓦を焼く際、乾燥を目的とする「素焼き」と、いぶして防水カを高める「本焼き」をする必要がある。
通常、瓦を焼く窯はこの二つが一気に出来る「だるま窯」で焼く。
だるま窯は、瓦を出し入れする入口とは別に二つの焚き口があり、ここから窯の中の温度調節が可能な構造であるため、素焼きも本焼きも一度に出来る。


ところが、村の炭窯は焚き口が一つしかなく、温度調節が難しい構造。
すなわち、窯の中は熱のムラが生じるため強度のある瓦が作れない。
そこで、素焼きと本焼きと二度焼きすることで、この問題を解消しようと深作さん。

こうして、いよいよ本焼きが始まった。
まずは、高温かつ徐々に熱を上げられるよう、窯の内部に炭を敷き詰める。
そして、素焼きした52枚の瓦を入れる。
本焼きは半日ほど火を焚き続け、尚且つ最後に頃合を見て松の葉を入れる。
松の葉から出る煙は、瓦の防水カを高める効果があるのだ。