石臼とは・・・
石臼の歴史は、弥生時代からとも云われるが、日本で大きく発展したのは、鎌倉時代から。その時代大名達がこぞって石臼で挽いた茶を好み、戦場に持ち出したのが始まり。
以後、江戸時代に入り、衣食住の文化が発展すると共に、一般庶民の間でも粉を挽く万能道具として広まっていった。江戸時代の百科事典「和漢三才図会」にも「ひきうす」の表記がなされている。
また、手挽き臼は、機械よりも回転数が低いため、回転熱で原料のうまみを壊すことなく、風味豊かな粉を作りだすことができ、現在でもソバを初めお茶・コーヒーなどを挽く道具として使用されている。


2008年8月 石臼材料探し/秋そば種蒔
昨年夏、収穫を終えた春そばを水車臼で挽いてみると、「粗挽きで粉になっていない」という問題が発生した。2004年の状態と比べてみても明らかに粉質が粗くなってきている。
その原因を探るため、近隣の職人の方を訪ねると、やはり
「石臼の縁が減っている、これでは良いものは挽けない」
と指摘。さらに、「石臼は、上・下臼が重なり、上臼の回転によって粉を挽くもの。最終的に粉質を決めるのは、円周のいわば(すり合わせ)部分。ここが石臼にとって最も重要な箇所」ということで、今後より上質なそば粉を挽くためには、今のものを修正するよりも、新しいものを作ったほうが良いとのことで、新しい石臼づくりに挑戦することになった。
さっそく、職人と石臼の原料となる石を探しに行く。
職人は、今までの村の石臼は「御影石」という石だったが、「安山岩」という石のほうがより石臼に向いていると言う。
安山岩は、多くの気孔や気泡を含み、熱を放出しやすい特性を持つため、熱によってそば粉が傷まず、より上質なそば粉が挽けるらしい。
職人の知り合いの採石場で安山岩を見せて頂けるということで、 会津磐梯山の麓に向かった。すると、推定100トンもの巨大安山岩があり、その中から村の臼のサイズに適した上下臼の2塊を分けてもらうことができた。
その頃、村では石臼の完成に向けて、秋そばの準備。秋そばは、春そばよりもたくさん獲れるらしく、収穫量には期待できそう。今年は大粒な品種の信州大そばを選んだ。

墨つけ(すみつけ)
持ち帰った安山岩で早速作業に取り掛かる。60kgという重さに戸惑いつつも、第一段階の寸法どりをする。一般的な手挽き臼30cmサイズを目標に成形していく。そのために、臼の中心を割り出すための「墨付け」を行い、石の塊に臼がとれる分の四角形を割り出す。

角出し(すみだし)
墨つけを終えたら、臼がとれる分の四角形が残るように縁から少しずつ石を割っていく。
これがまた大変な作業で刃を内側に入れすぎると、石が削れすぎたりと、刃の角度がとても難しかった。

平面にする作業
何とか四角形を型取り、次は、「平面にする作業」。
このままだと、上下の臼同士が凹凸が多くうまく噛み合ない。そこで、より凹凸の激しい部分を平らにする工程へ。
さっそく「びしゃん」という、特別な道具で石を叩き平らにしていく。


2008年 9月 円形の成形/そばの花満開
秋の装いが動き始めたころ、早くもそばの花が咲き始め、実がつき始めたものもでてきた。
そばの生長に追いつくためにも、石臼づくり作業も急ピッチで進む。
「びしゃん」でようやく石が平らになり、次は石臼の形「円形」に石を削っていく。
ここでのポイントは角出しの要領に加え、両側から石を削りとっていくこと。つまり石臼の上下両面から刃物を入れる。この作業も、また刃の角度、力の入れ具合がとても難しかった。
大きな四つ角を落としたら、細かく角を落として円形にしていき、最後に「びしゃん」と「のみ」で仕上げる。

側面補強
そばの実も黒く実りを成し、石臼作業も次の段階へと移る。
村の水車のように、肝であるすり合わせ部分が今後欠けないように補強をする。そこで、側面の部分にちょうながけを施す。「ちょうな」とは、叩きめをいれたり、表面を整える道具。
さっそく、ちょうながけをするも、際を叩くというのは、とても神経を使う作業で、なかなか上手く進まなくて困っていると、職人が「てこの原理」を使えば楽に削れますよ」という良いアドバイスをしてくれた。


2008年 10月 ふくみ加工
ふくみとは上臼と下臼の隙間、材料が入る空洞部分の事。ここに適度な傾斜をつける事でそば等の実が縁のすり合わせ部分に流れやすくなるため、ふくみは凹凸型が一般的。(※ちなみに関西の臼は下臼が凸型でなく平面)
この微妙な曲線こそ、臼の質を決める重要なポイントとなる。
上臼は凹面になるよう削り、下臼は凸面になるように削っていく。
石臼の微妙な曲線を出すためにも、まずは型を作り、その型に合わせ、少しずつ削っていく。
曲線を出すといっても、そう簡単にできるものではなく、職人のアドバイスで、まずは対角線上にに曲線を彫っていく。たんきりで縁を削ってはちょうなで叩いて微調整の繰り返し作業は続き、やっとのことで、曲線が完成し、仕上げに砥石でより滑らかにする。これで、ふくみ完成。

もの入れ穴あけ作業/挽き手づくり
石臼を回すには欠かせない手挽き手の材料探し。
挽き手に適した直角に近いチシャノキの根元を伐採する。
上臼のサイズに合わせてナタで余分な箇所を削り落とす。
一方、石臼は、上臼のもの入れの穴あけ作業にとりかかる。
もの入れとは、「材料」をいれる部分のこと。ここは「たがね」という棒を使って、二人で穴を掘り進めていく。
2人で呼吸を合わせ、たがねを回転させながら打ち込んでいくという作業がとても難しかった。
もの入れの穴あけ作業も終わり、上臼と下臼の重なり具合をチョークを塗って確認する。石があたっている所が色が抜けるということで、すり合わせた部分に満遍なくチョークを塗る。
さっそく石臼をまわして見てみると、まだ、チョークの色にもばらつきがあり、再度ちょうなで削りふくみを調節し、最後に研磨剤で滑らかに仕上げる。


2008年 11月 石臼仕上げ/そば収穫
そばも待望の収穫を迎え、石臼づくりも仕上げの作業に入る。
最後の仕上げで、そばの実が粉になるための溝を切る。
上下それぞれに刻まれた溝が回転しながら重なり合う事で初めて材料を縁のすり合わせに送り、粉状に出来る。そのためにも溝切りも重要な作業。
まずは型の印に沿ってラインを入れる。今回はふくみの傾斜が活きる6分割の溝で。ちょうなの扱いは慣れたせいか、意外と難しい同じ場所に刃物を落とすコツは習得していた。
時間は要したが、難なく溝切りは完成。
最後に明雄さんが里山から切り出してくれたヤマザクラの朽ち木を芯棒に打ち込み、いよいよ完成。



2009年 1月 そば挽き・そば食す
石臼がようやく完成し、寒晒しそばをようやく口にする時がやってきた。天日乾燥で寒気に晒した、とっておきの秋そばを、今年は2段階でそば粉に。
まずは、そばの実の皮だけを剥く「まるぬき」作業し、その後白い実だけを1回転に10粒ぐらいずつ石臼にかける。今までの水車臼では、そば殻ごとまとめて粉にするいわゆる「挽きぐるみ」で当然、そば殻も粉に混じる分きめ細やかなそば粉は難しかった。でも、芯棒で高さ調整が出来る今回の石臼ではそば殻を剥いた「まるぬき」が可能になり、よりきめ細かい粉になる。
さっそく、挽き立ての粉でそばを打ち、食べてみる。
やはり、「まるぬき」で挽いた粉は絶妙な味と香りを生み出し、とてもおいしかった。
さらに、そばの付け合せに、去年の秋野菜ゴボウ、生姜、ニンジン、カボチャ秋に天日乾燥させた「干し野菜」をかき揚げにする。
そば打ち前、3時間ほどお湯に浸けて復元を遂げた野菜をかきあげにする。干し野菜のかき揚げは甘み・香りが増し、とてもおいしかった。






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