冷麺
朝鮮半島北部原産の伝統的な麺料理。半透明な麺は弾力があり、独特の歯ごたえが楽しめる。
麺は、やせた土壌でも育つ蕎麦と緑豆から抽出されたでんぷんが使われ、スープにはトンチミという大根の水キムチのスープが使われていた。
現在、冷麺は盛岡など日本各地でもよく食べられているが、小麦粉で作られた麺と肉でダシが取られたスープが主流になっている。
韓国では冷麺をオンドルと呼ばれる暖房システムで暖まった部屋で食べた。オンドルは温度調整が難しく暖かくなり過ぎる事があるので、冷麺を食べて体温調節をしていたらしい。
現在、冷麺の麺は作り方の難しさから大半が機械で作られている。

水キムチ
塩水に漬けて作られる辛くないキムチ。
野菜に塩をまぶし、多めの水に浸して0°〜10°の場所で保管する。野菜についた乳酸菌が活発に働く事によって発酵しサイダー水のようになり、酸味が特徴のキムチになる。
唐辛子が朝鮮半島に伝来する前からあったキムチで、キムチの祖とも言われている。いくつか種類があり、小ぶりの大根を丸ごと漬けた水キムチは冬を越すために漬(沈)けられるキムチと言う意味で冬沈(トンチミ)≠ニ言われる。

チョン・ラクスンさん 52歳
日本名:三浦ラクスン 大韓民国出身。通称は楽ちゃん。
17年前に日本人男性との結婚を気に来日。小さい頃から母親に教わっていた本場韓国のキムチが評判になり、自宅で販売を始めた。キムチや冷麺以外に、楽さんが教えてくれる日本とは違う韓国の味や習慣などが興味深く、勉強になった。


2010年9月
真夏日が続いていた9月、黒く熟したさやを割り、緑豆を収穫。緑豆は以前春雨を作った時にも使った。今回はこの緑豆を使って冷麺づくりに挑戦する。
まずは収穫した緑豆からでんぷんを採取する為、一晩、水に浸した緑豆を石臼に入れ、水を混ぜつつすり潰す。すると、緑がかった濃厚な液体が出て来た。これをサラシでさらに漉す。サラシに漉された液体にはでんぷんが含まれ、しばらく寝かせるとでんぷんのみが沈殿する。
上水が澄むまで取り替えつつ一週間後、分離したでんぷんが白く鍋の底に沈殿した。上澄み液を取り除き、触ってみるとすでに固まっていた。この採取したでんぷんをさらに粉状にする為、サラシで包み囲炉裏の上で乾燥させる。



2010年10月
3週間後、サラシの中の緑豆でんぷんは乾燥し粉状になり、緑豆でんぷん粉が完成。収穫し、保管していた蕎麦の実も石臼で摺り、麺の材料は揃った。


2010年11月 大根・白菜収穫
水キムチと冷麺の作り方を指南して頂くべく明雄さんの知り合いである韓国人のチョン・ラクスンさん、通称楽ちゃんを村に迎えた。楽さんに教わりつつキムチ用の壷・ハンアリに入る小ぶりの大根と芯が固めな白菜を選んで収穫し、水キムチづくりを開始した。

トンチミ(冬沈)づくり
@ 大根の葉を切り落とし、ハンアリに入れる。
まずは綺麗に洗った大根の葉の部分だけ切り取る。この時、切り口から水分が入ると腐り易くなる為、小さく浅く切る事がモットー。葉を切り取った大根はそのまま丸ごとハンアリの中に入れる。このハンアリは空気を良く通し湿度を適度に保つ為キムチづくりには最適なもので、楽さんもキムチを日本でつくる為、大事に飛行機の中でも抱えてながら日本に持って来たほど。
A 大根の葉、ニンニク、ネギを丸ごと加える。
B 殺菌効果がある塩とカビ防止の白炭を入れる。
C 野菜が浮いてこないよう、藁で落とし蓋をする。
D 藁が浮かぶまで水を入れる。
E 辛みを足す為に唐辛子を1本丸ごと入れる。
F 全て丸ごと浸けるという豪快な水キムチが完成、一ヶ月間寝かす事で発酵させる。


白菜の水キムチ
@ 野菜を細かく刻む。
白菜の葉の部分は使用せず、茎の部分のみ使う。ニンニクはトンチミと違い丸ごと入れず、包丁の腹を使って豪快に潰す。ニンニクを潰す時の楽さんの勢いはすごく、一発でニンニクがぺちゃんこになっていた。
A 具材に塩、砂糖、ゴマを加え混ぜる。
B 5分間なじませた後、ハンアリの半分以上の水を加える。

トンチミと白菜の水キムチが完成し、2つのハンアリが並んだ。この水キムチを一ヶ月間保管するには、中の水がある程度低温を保てる場所が必要。楽さんのアドバイスもあり、9年前に城島さんが韓国を訪れた際に目にしたキムチの保管方法を実践する事にした。それは壷ごと土に埋めるという保管方法。埋める事によって、温度が一定に保たれる。
相談した結果、2つのハンアリを並べて畑の真ん中辺りに埋める事にした。そして、さらに雪の多い村の環境では、積もった雪でハンアリが埋もれてしまうので、雪除けの藁小屋も設置した。
本場韓国でも昔はこのように保管されていたそうだが、現在ではキムチ用の冷蔵庫が一般的になり、その数は減っているそうだ。村でこの伝統的な方法を再現すると、母親に教えてもらっていた時代を思い出したのか楽さんの目には光る物があった。
これでこのまま一ヶ月間、土の中で2つの水キムチを保管する。


2010年12月上旬 水キムチ様子見
水キムチを発酵させてから2週間、途中経過を確認する為に中を覗いてみた。
すると、トンチミの表面に何やら白い物が浮いていた。楽さん曰く、カビではなく産膜酵母という酸素に含まれる酵母菌が増殖したものらしい。12月上旬にもかかわらず暖かい気候が影響して発生した物だった。体に害はないが、発酵が進むと酸味を出し風味を壊しかねないので、表面に浮いた産膜酵母だけ除去する事にした。さらに藁を取り除き、中の様子を確認した。発酵が進み炭酸が少し発生し始め、順調な様子。炭酸が発生するので水キムチを沢山食べれば、おならも出るらしいが、お腹の調子は良くなるそうだ。
あと、一週間ほどさらに発酵させれば水キムチもいよいよ完成。

2010年12月中旬 水キムチ完成
去年より大分遅く本格的な雪が降り始めた。藁小屋のおかげでこの大雪に埋もれる事なく、一定の温度で発酵させ一ヶ月が経った。大根と白菜の二つの水キムチの成果は上々。2つともよく発酵し、トンチミは味の濃いスープになり、白菜の水キムチは白っぽく、とろみが付いたスープになった。
味見をしてみたらどちらもニンニクが効いていておいしかった。唐辛子の辛みがあまりないキムチは初めてで少し新鮮だったけど、好きになった。
2つの水キムチが無事に完成し、いよいよ、麺づくりを始める。



麺づくりの工程
練り→押し出し→茹でる→冷却

練り
この練りの工程が一番難しくて、重要な工程。
まず、蕎麦粉と緑豆でんぷんの割合を1:1にしてよく混ざり合うように撹拌する。
よく粉同士が混ざり合った所で、水分を加えながらさらに撹拌していくのだが、ポイントがいくつかある。まず、水分を混ぜる時は必ず熱湯を使用する。緑豆でんぷんと蕎麦粉には生地に粘りを発生させるグルテンがないので、うどんなどのように水では生地にならない。しかし、熱湯を加える事によって、緑豆でんぷんの成分が変化し粘性が生まれ生地となる。そして、次にこの水分量も重要な要素の一つになる。天候と温度によって微妙に調整していかなくてはならない。この微妙な調整具合を誤れば、ちょうどよいコシと弾力は生まれない。
熱湯を粉に加える時も注意しなければならない。というのも、ごく少量ずつ加え、全体的に水分を行き届かせないといけないので、加えた瞬間によく撹拌する。これを繰り返し、理想な固さである耳たぶ程の固さに近づけていく。

押し出し
練り終えたら、生地はグルテンを含まないので寝かせずにすぐ製麺機に入れ押し出す。しかし、この押し出すのにかなりの圧力が必要なので、一般的にこの押し出しには機械が使わる。機械は一気に麺を押し出すので途中で切れる事なく長い麺になる。生地に粘りがあるうちに押し出さなければならないので、すばやさも必要。冷麺の手作りが難しい理由がここにある。
そこで考えたのは、以前使った油搾り機を使う事。多少時間がかかってしまうが、かなりの圧力で押し出す事が出来る。実際に試すと上手く麺を出す事が出来た。ただ、機械に比べ押し出すのに時間がかかる分、麺の水分量によってはすぐに切れてしまう事もあるので、麺の具合が重要になる。


茹で
麺を押し出せたらすぐに熱湯に入れ、茹でる。グルテンがないので麺線を長く保てず少しでも時間が経ってしまうと細切れ状態になってしまう。
茹でる時間は一分間。これ以上茹でてしまうと、今度は水分量が多くなり伸びてしまう。

冷却
一分間茹でた麺はすぐに取り出し、冷水に浸ける。こうする事により、麺が固まり引き締まる。これでようやく冷麺の麺が完成した。

楽さんの弟さんが手作りで冷麺をつくると聞いて驚いたほど、冷麺を手作りするのは難しい。実際につくってみても本当に難しく、一回目は水の分量が少し多めだったのか、生地が緩くなってしまい失敗してしまった。粉の配分、水分量、素早さなどどれか一つでも欠けてしまったら弾力のある冷麺はつくれない。成功と失敗を繰り返しつつ成功の割合を上げるしかないが、成功した時の手作り冷麺は格別においしかった。



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