◆ 設楽悠太さん
埼玉県出身。男衾中、武蔵越生高から東洋大へ。箱根駅伝は1年時3区8位、2年時7区区間新、3年・4年時3区区間賞。卒業後はHondaに進み、2018年東京マラソンで16年ぶりに日本記録を更新(2時間6分11秒、現在歴代5位)。2023年から西鉄。


東洋大へ進学を決めたのは、実家が近かったことがいちばんの理由なのですが、実は子どもの頃から駅伝は「駒澤推し」でした。ちょうど「平成の常勝軍団」と言われていた頃。いつも勝っていて強いイメージでした。駅伝スタイルが特に好きで、常に積極的な走りをする選手が多かった印象です。復路後半の逆転劇、8区や9区で活躍した堺晃一さん(元富士通)ですかね。テレビで見ていて「かっこいいな」と思いました。その時はめちゃくちゃ応援していました。大八木弘明監督からは高校の時にオファーはあったのですが…。ちょっと家から遠かった。埼玉から出たくなかったんです。

大学では最高の仲間たちと出会い、4年間かけて最強のチームを作ることができました。3年連続区間賞は、結果だけ見るとすごいように見えますが、僕は楽な区間しか走っていません。自分にしてみれば「取って当たり前」でした。これがもしエース区間だったら区間賞は取れていなかったでしょう。チームメートに助けられたことの方が多かったです。

2年生で7区区間新の時も、先輩たちのおかげで2位と6分以上の差がある中でスタートしました。後ろとの差もありましたし、とりあえずつなげばいいやと思っていました。記録にこだわりはなく、区間新も走り終わってから気づきました。3年生の時の3区も、早稲田の大迫傑君や山梨学院大の井上大仁君、駒大の中村匠吾君といったすごいメンバーが集まっているなーっていう感じはありました。ただ僕は2区の兄貴(啓太)から先頭と1秒差でタスキをもらったので、そのいい流れのまま走れたのでいい走りができました。それがたぶん、強い選手たちと一緒のタイミングでタスキをもらっていたら負けている可能性もありました。

2年生の時の総合優勝は先輩の力が大きかったので、正直あまりうれしさは少ないです。4年生の時の総合優勝の方が、自分たちの力で優勝できたうれしさが大きいです。兄貴がキャプテン、僕が副キャプテンという立場でしたが、そういうのはただの肩書でしかありません。別に何も仕事はしていないつもりです。後輩たちが黙ってついてきてくれたことがいい結果につながりました。

兄貴は大学の時は常に練習も一緒。お互い状態もよく分かっていました。自分としては安心感がありました。記録はあいつの方が全然速かったし、練習も強かった。兄貴は陰で努力するタイプでもあり、他の選手が走っていないときに練習している姿を見て、結構自分は刺激を受けました。

何か「怖いもの知らず」というところがあいつにはありますね。大学の時はほとんどエース区間。箱根駅伝は1年生から2区です。普通1年生で任されると怖さがあるはずなのですが、あいつは全然怖さもなく、積極的に周りのチームのエースたちに付いて行っていました。そこはあいつの魅力だと思います。僕だったらいきなり2区と言われていたら断っていたでしょう。4年生の時は兄貴は5区です。たぶん前年に日体大が総合優勝して、服部翔大に勝てるのは兄貴しかいなかったでしょう。対抗するにはそれしかありません。山上りの才能で言ったら服部の方が全然強いと思いますが、その分走力でカバーしていましたね。あいつも山はそんなに強くないはずなので。


第90回箱根駅伝往路表彰式 設楽悠太(左)・啓太(写真:アフロスポーツ)

僕らのいた頃の東洋大は優勝しか狙っていませんでした。駅伝を走るのが子どもの頃から大好きなので、駅伝を走っている時がいちばん陸上選手という感じがします。誰が勝つとか区間賞を取るのかも楽しみですが、ごぼう抜きも駅伝の一つの楽しみ方なのかなと思います。前の選手を抜くときがテレビに一番映りますし。僕も先頭でもらうよりも後ろでもらう方がやる気が出ます。社会人の駅伝ではそういう場面も多くて楽しかったのですが、東洋大の時は後ろでタスキを渡しちゃうと酒井監督にめちゃくちゃ怒られる状況でした。

自分はあまり試合で負けたとしても落ち込んだり考えたりしないタイプです。他人と比べたりもしません。3年生で優勝を逃した時も、自分たちは全力で走って負けた、ただ単に相手が強かった、それだけです。監督からは熱心に指導していただきました。それだけ期待してくれていた証しだと思います。今はやはり大学4年間の陸上人生は大きかったと思っています。

大学の後輩たちには、箱根駅伝では自分のベストを尽くしてほしいですね。負けたら負けたで仕方ないし。後悔はしてほしくないです。選手たちは全力で準備しているので。終わった後、もっとこうすればよかったとか、もっと走れたなぁという思いはしてほしくない。いちばんは「やり切った」という思いがあればいいと思います。