2011年の第87回箱根駅伝では珍しく、優勝争いが最後までもつれた。
往路は、“2代目・山の神”と称された柏原竜二が、先行していた早稲田大学を箱根山中で捕らえ、東洋大学がトップで折り返した。しかし、復路に入って早大が逆襲に転じ、6区で奪首に成功する。
必死に逃げる早大。じりっじりっと詰め寄る東洋大――その構図は大手町のフィニッシュ直前まで続いた。結局、早大が再逆転を許さず、大会新記録(当時)を樹立して18年ぶりの総合優勝を果たした。
3連覇を目指した東洋大は、終盤に3区間連続区間賞で追い上げるも、惜しくも2位に終わった。早大との差はわずか21秒。箱根駅伝の98回の歴史の中で、今も最小僅差での決着だった。
21秒という差は1区間でも十分に挽回できるタイムだ。しかし、敗れた東洋大の選手たちが口にしていたのは「全員が1秒、1秒を大切にしていれば……」という言葉だった。
「この敗戦が、チームにとって新しい扉を開くきっかけになった」
酒井俊幸監督がこう振り返るように、箱根駅伝で味わった悔しさは、彼らをまた一回り大きく成長させた。
こうして誕生したのが『その1秒をけずりだせ』というスローガンだ。
この言葉に雪辱を誓い、新チームはスタートし、翌88回大会では見事に王座奪還に成功した。走った選手のみならず、サポートに回った者も含め、全員が“その1秒”を大切にした結果、2位に9分もの大差を付ける圧勝劇を飾った。
『その1秒をけずりだせ』は、今も東洋大のチームスピリットとして後輩たちに受け継がれている。多くの選手はその言葉を腕に記し、大事な一戦に臨んでいる。