エキシビジョン

メッセージ

美術が映画の品格を決める

スタジオジブリプロデューサー 鈴木 敏夫

  仕事柄、映画を見るとき、背景ばかり見ている。

  種田陽平の名前を意識したのは、岩井俊二監督の「スワロウテイル」の美術だった。この映画に登場する「円都(イェンタウン)」という架空の街が鮮烈な印象を残した。時代は近未来の日本。アジアから、一攫千金の夢を求めて移民が移り住んでいる。近未来の日本は、こうなっているに違いない。それが本当かどうかは、むろん、怪しい。しかし、そんなことはどっちでもいい。大事なのは、現実と虚構を融合させた、それらの“作り物”を見て、観客がそう思えるかどうかだが、そう思わせるに十分余りあるセットだった。

 種田陽平の傑作は枚挙に暇がないが、近年の傑作をひとつだけあげるなら「ヴィヨンの妻」だ。特に、居酒屋がよかった。
 美術が映画の品格を決めると言ったのは宮崎駿だが、ぼくも、その意見に大賛成だ。宮崎アニメの素晴らしさの半分以上が、美術にあると言っても過言では無い。

  この夏、ジブリの新作「借りぐらしのアリエッティ」でも、宮崎駿は新人監督への餞(はなむけ)として、ふたつのプレゼントを用意した。ひとつは脚本。もうひとつが美術設定だ。いろいろ描いたが、床下に住む小人の部屋が特に素晴らしかった。いかにも、小人が住み着きそうな部屋だったからだ。それらを元に、種田陽平が実際に作ったらどうなるのかというのが、今回の企画の趣旨だ。
  宮崎駿×種田陽平、実際の映画ではなかなか実現しない、この夢の饗宴。まずは、ぼくが大いに楽しみなのである。