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伝統工芸 の科学
第1297回 2015年10月18日


 今回は、職人の技が光る伝統工芸の科学!

①美しいだけではない「南部鉄器」のスゴい機能

 岩手県の南部鉄器。現在カラフルなものも生まれ、この可愛らしいデザインがヨーロッパで人気になっています。デザイン性の高さもさることながら、その真髄は伝統的な技術がつまっている機能性。工房を訪ね、この道23年の伝統工芸士・八重樫亮さん作り方を見せてもらいます。
 南部鉄器の工程は鋳型作りから。鉄器の上部分の型と下部分の型、そして内部を空洞にするための中子という型。この3つのパーツを組み合わせ、すき間に鉄を流し込むことで、鉄器が出来るのです。鋳型作りに使うのは、職人手書きの図面から写した金属板。これを回して立体的な形を作ります。鋳型の表面がなめらかになるまで続け、同様の作業で、鉄器の上部分の鋳型も作っていきます。続いては、鉄器の上部分の鋳型に模様をつける工程。南部鉄瓶独特のボツボツは、鋳型の内側から外側にむかって、模様を押すことで模様が浮き出た形で出てくるんです。この作業、丸1日から2日かかります。次に、模様をつけた鉄器の上部分と下部分の鋳型、そして鉄器の中を空洞にするための中子を組み合わせ、1500度以上の温度でドロドロに溶けた鉄を溶けた鉄を鋳型に流し込みます。鋳型をとると真っ赤な南部鉄器が。この後、金気止めという大事な工程があるのですが、秘密の作業ということで撮影NG。そこで、専門家の岩手大学工学部平塚貞人教授にどんな作業か伺うと、金気止めとは鉄瓶を火の中にいれて800度から1000度で加熱すること。これで鉄瓶の内側に酸化皮膜がつきます。酸化皮膜はとても強いもので水分がふれてもそれ以上酸化(サビ)が進まなくなるそうです。金気止めの後は、仕上げの着色作業。もう一度鉄器を熱し、漆を焼き付けていきます。これは鉄器表面のさび止めになるんです。そして、お歯黒液を塗って完成。南部鉄器、独特の深みのある色合いになりました。
 見た目が美しくサビにも強い南部鉄器ですが、この鉄瓶で淹れたお茶は美味しくなるんです。味覚センサーの調査結果を見ると、全体的に南部鉄瓶で入れたお茶の味覚の数値が高くなっています。お茶の美味しさを研究している大妻女子大学の大森正司名誉教授によると、美味しさの秘密は、鉄瓶に付着している「湯アカ」とのこと。中を見ると白い付着物がついています。この湯アカの正体は炭酸カルシウム。お湯を沸かすときに鉄瓶に付着するんですが、炭酸カルシウムは、再びお湯を沸かすときに溶け出してきます。お茶の美味しさの要因の一つとして、グルタミン酸があげられ、炭酸カルシウムとグルタミン酸がくっついて、旨味を感じやすくし、お茶の美味しさを高めてくれるんです。ステンレス製など一般的なやかんは内側の面がつるっとしているので、鉄瓶に比べて湯アカが付着しにくい。鉄瓶は金気止めによって、酸化皮膜が付き、より表面がぼこぼこしているので湯アカがつきやすいんです。鉄瓶はこの湯アカが大切なので、洗ってはいけません。お湯を沸かしたら、すぐに中身を出して、熱がある状態で水分をとばして乾かす。これが南部鉄瓶の正しい使い方!

所さんのポイント
ポイント1
錆びにくいし、お茶も美味しくなるし、お手入れも楽!南部鉄瓶は魅力満載なのだ!


②職人手作りの「銅おろし金」は機械製と何が違う?

 創業から63年、地元の人に愛されている老舗の焼き鳥屋さん。ここで使われている伝統工芸品が「銅おろし金」。多くのプロ料理人が愛用しています。機械で作られた一般的なものと基本的な構造は似ていますが、お店の人によると、銅おろし金ですりおろした大根は、全然違うとのこと。お客さんも「味がまろやか」と絶賛。一般的なおろし金と一体なにが違うのかを調べるため、葛飾区にある銅おろし金の製作所に伺いました。銅おろし金職人の勅使河原隆さんは、葛飾区の伝統工芸士に認定されています。
 銅おろし金の工程は、まず型取った銅板に溶かしたスズをつけ、表面がコーティングしさび止め変色防止に。そして勅使河原さんが「たがね」という道具で刃を立てていきます。一枚につき刃は600。リズミカルに次々と刃を作っていきますが、これも職人だからこそ。後藤アナもためしに挑戦したら抜けたまつ毛みたいな出来上がりに。職人の作業は集中力が必要なため1日7枚程度しかできないそう。
 こうして完成した勅使河原さんの銅おろし金。鋭い刃がキレイに立てられています。しかし横から刃を見てみると刃の並びが均一ではありません。機械打ちの一般的なおろし金と比較してみると、機械製は刃の並びが一直線なのに対して、職人のおろし金は不規則に刃が並び奥まで全く見えません。勅使河原さんによると「わざと不規則にしている」とのこと。大根をすりおろして比較すると、職人の方がみずみずしく歯ごたえもシャキシャキ!
 そこで、食品の美味しさについて研究している専門家に協力してもらい実験。一般的なおろし金と職人の銅おろし金で50グラムの大根をおろして食材の水分がどれだけ流出したかを比較します。結果は一般的なおろし金の流出水分量はおよそ15グラム。一方、職人の銅おろし金は、およそ11グラム。その差4グラム。それだけ大根の繊維に水分が残っているということ。さらにおろした大根の繊維を比べてみると、銅おろし金の方は繊維もしっかりと残っていました。東京工科大学の阿部助教によると、一般的な方は目が細かくて縦に並んでいるから、大根をすりつぶしてしまい細胞の中の水分も一緒にでてしまう。銅のおろし金ですると、刃がバラバラになっているので、切るようにおろせる。細胞がつぶれにくいので、細胞内の流出する水分が少なく、食感も良くてみずみずしさがでてくるとのこと。

所さんのポイント
ポイント2
プロの料理人も愛用する銅おろし金。職人のあくなき向上心と熟練した技が料理を美味しくしていたのだ!


③「つづら」はただの収納箱じゃなかった!

 昔話「舌切り雀」でおじいさんが助けたスズメからお礼にともらった箱がつづら。古いイメージですが、実は今、女性に人気でモダンな収納箱、インテリアとして注目されています。注文から3ヶ月待たないと手に入らないほど。
 このつづら、ある優れた効果を持った収納箱なんです。
 取材したつづら職人は4代目の岩井良一さん。現在、つづら職人は全国にも数人しかいなく都内では1店舗のみ。専門の職人が編んだ竹かごを岩井さんがつづらに仕立てていきます。
 最初の工程はのりをつけた和紙を竹かごに貼っていく下張り。竹のヘラを使い、和紙を密着させていきます。和紙が竹の風合いをキレイに残し貼られています。続いて職人は「柿渋」を用意。柿渋とは熟していない渋柿をすり潰し発酵、ろ過したもの。柿渋を染料とまぜ、竹かごに塗っていきます。朱色のつづらを作るときはベンガラという酸化鉄を混ぜ、黒のつづらを作るときは松煙を混ぜ染料を作ります。竹かご全体に塗っていき、仕上げは漆塗り。現在は漆と近い効果を持つカシューナッツの殻から取り出した樹脂塗料を使います。この樹脂塗料とそれぞれの色の染料を再び混ぜ塗っていきます。この作業で、つづら独特の光沢が生まれるんです。刷毛を巧みに操り、むらなく仕上げていき乾燥させたら完成!竹の風合いと上品な色合いはさすが職人技。つづらの持つ優れた効果について職人に伺うと「防虫・防カビ効果がある」とのこと。その効果を生み出しているのは柿渋なんだとか。
 そこで、検証!ラップ、和紙、そして柿渋を塗った和紙の3つを用意し、それぞれで餅を包み、カビが発生しやすい温度、湿度に保ち1週間放置します。そして1週間後、ラップで包んだ餅は、カビが生えています。和紙で包んだ餅も裏にびっしりカビが。柿渋を塗った和紙は、カビが生えていません。一体ナゼか?柿渋の効果に詳しい奈良県農業研究開発センター加工科総括研究員の浜崎貞弘さんによると、「タンパク質の凝集作用が作用していると考えられる」とのこと。タンパク質を多く含んでいる牛乳に柿渋を入れ、遠心分離機にかけると牛乳のタンパク質と柿渋のタンニンが反応して固まります。これが柿渋のタンパク質凝集作用。菌はタンパク質の塊なので、菌を固め身動きできなくする。さらに、柿渋は乾燥すると樹脂化して水をはじきます。カビは水分がないと繁殖しなくなります。この2つの効果でカビの発生を防いでいたのです。

所さんのポイント
ポイント3
柿渋の高い抗菌性、防水性が、つづらの優れた効果だったのだ!




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