放送内容

第1418回
2018.03.25
とんかつ の科学 食べ物

 ある調査によれば、外食産業のチェーン系とんかつ店の数は2010年から現在まで、およそ3倍以上に。世はまさにとんかつブーム!そんな日本人に愛されているとんかつに思いを巡らせていたところ、ある謎が…。とんかつは極厚にもかからず、ナゼあんなにも柔らかいのでしょうか?また、とんかつの醍醐味と言えば、サクサク感!しかし、それが台無しになってしまう、しっとりした“かつ丼”もまた人気という謎。そこで目がテンで「トンカツ」を科学します。

とんかつ おいしさの秘密1

 トンカツの魅力と言えば、分厚く柔らかいジューシーな豚肉とサクッとした衣のハーモニー。このとんかつの魅力を、とんかつ大好きな佐藤アナと小麦製品のスペシャリスト工学院大学・山田昌治教授とで科学して、おいしさの秘密を探ります。山田先生によるととんかつは「衣が調理器具になっている」とのこと。
 そこで、衣があるとんかつと、衣がない素揚げで比較してみることに。用意したのは、厚さ2cmの豚のロース肉。重さも177gにそろえます。調理中、肉の変化を観察するために、中心に温度計を差し込みます。小麦粉をまぶして、卵にひたしたら、パン粉をまんべんなくつけます。続いて、素揚げにする肉もスタンバイ。どちらも同じ温度の油で、同じ時間、揚げていきます。油は150℃になるよう微調整しながら調理します。およそ9分後、とんかつが揚がった所で、2つを油から取り出します。ここで、揚げ油に変化が。素揚げの油は変色して濁っています。

 続いて、重さを測り、ジューシーさを生む肉汁の量を調べると、素揚げした方は、とんかつよりも30g肉汁が減り、全体の3分の2の肉汁が失われていました。

 実は、先程、素揚げの油が濁っていたのは、肉汁として流れ出たたんぱく質が変色したため。とんかつは衣がある事で、高温で揚げても肉汁を多く残すことができるんです。さらに、衣には肉の柔らさにも関係が。とんかつと素揚げ、それぞれを一口大にカットして、かみ切るのに必要な力を測定。すると、とんかつは、素揚げの4分の3の力で噛み切れることがわかりました。

 そもそも肉類は高温になるほど縮んで硬くなります。豚肉にまぶした小麦粉は90%がデンプンで、デンプンは空気を多く含むため熱を通しづらい性質を持っています。さらにパン粉も同じく熱の伝わり方を緩やかにします。なので、調理中のそれぞれの豚肉の中心温度を見てみると、とんかつは中心温度が75℃になるまでゆっくりと上昇しましたが、素揚げわずか2分ほどで75℃になり、7分で100℃に達していたんです。

ポイント1

衣で肉の温度が急上昇するを抑えているから、とんかつは分厚くてもジューシーで柔らかいのだ!

とんかつ おいしさの秘密2

 とんかつのおいしさに秘密2は「衣自体のおいしさ」。とんかつの醍醐味、衣のサクサクとした食感。それを作り出しているのが、揚げる時に出てくる泡!あれは衣に含まれる水分が蒸発した水蒸気なんです。そもそも、とんかつの衣は、小麦粉、卵、パン粉から出来ています。その衣が高温の油に触れると、衣の水分が一気に水蒸気ガスとなり、やがて水分があった場所は空洞に。これが気持ちのいいサクサクとした食感の生まれる理由。

 そして…とんかつの衣は高温で熱せられると、水分が抜けるだけでなく、中のたんぱく質と炭水化物がアミノ酸と糖に分解され、化学反応を起こします。これが香ばしさに関係するというのです。きつね色になる事で香ばしくなる現象をメイラード反応といいます。食パンをトーストすると香ばしくなるのも同じ現象です。

 とんかつの美味しさの決め手である衣。そのため、とんかつ屋さんはパン粉に並々ならぬこだわりがあるんだとか。そこで、パン粉を作る工場に伺いました。都内にあるパン粉専門のパン屋さん。焼かれた食パンは全て機械に投入されて、とんかつなどの衣に使うパン粉になります。こちらで焼かれているパン粉専用のパンは、普通のパンとは別物だと言います。
 そこで、市販の食パンとパン粉用の食パンを食べ比べてみると、「普通の食パンと違い甘みと滑らかさが少ない」。市販の食パンはそれだけでおいしいようにマーガリンやバター、脱脂粉乳を使っているが、パン粉用のパンはとんかつの衣になって初めて効果を発揮するよう素材の味を邪魔しないという点を重視しているので、そういうものを使わないでパンを焼いてるんです。とんかつの衣になるパン粉は、パンの味を前面に出さない工夫がされているんです。さらに、とんかつ屋さんの好みに合わせ、砂糖の量を変えて焼き分けているパン粉用のパン。そうすることでとんかつを同じ温度で揚げても衣の色づき方に差が出るのだとか、確かに同じ温度の油で揚げても、糖分の多いものほど色づき方が濃くなっています。

 この色の違いが衣の香ばしさに影響します。たかがパン粉と思いきや、とんかつの味を大きく左右する重要な役割を果たしているんです。
 さらにとんかつの衣は、あの料理でも大きな鍵を握っています。それが「かつ丼」。とんかつを甘辛い出汁で煮込んで作るかつ丼は、衣のサクサクは台無ですが、コレはコレでたまりませんよね?そこで、衣をつけた方がおいしくなるということを実際に試してみます。用意したのは、同じ重さの豚肉で作ったとんかつと、焼いた豚肉。この時、とんかつは190g。焼いた豚肉は140gこれをだし汁に浸し、1分後、それぞれの重さを計測すると、焼いた豚肉は変化が無しですが、とんかつは17g増。

 これは、とんかつを揚げた時、水分が蒸発して出来た衣の空間に、出汁が入り込んだため。

 しかも衣には、とんかつを揚げた時、肉から出た肉汁や栄養が多く多く含まれています。なので、カツ丼は、肉汁の旨味と出汁の旨味が衣で出会うんです!

ポイント2

カツ丼は肉汁を吸って美味しい状態の衣に、出汁まで吸わせちゃう旨味の極上グルメなのだ!

開催!とんかつ会議

 街でとんかつの食べ方を聞いてみると「とんかつを全部食べてからキャベツを食べます。」「ソースよりも醤油とからしです。」「塩で食べます」など、意外と皆さん食べ方に違いがあるようです。
 そこで、上野の路地裏にあるとんかつ屋「とん八亭」に日本を代表する料理評論家山本益博さんと数々のグルメ雑誌に記事を寄せるタベアルキスト、マッキー牧元さんを招集。舌の肥えた食通たちが毎週食べても飽きないと言う、とんかつの最強の食べ方を指南頂きます。そして調理科学の露久保先生にこの会議を分析してもらい科学的にも検証。さあ、とんかつ会議の開催です!
 まずは一口目。佐藤アナ、両サイドからプレッシャーを感じつつ、端っこにソースをかけて食べはじめました。しかし、山本さん、牧本さんは「昔はそうしてた。」「私もそうでした。何の疑いもなく!」と何やら言いたいことがありそう。とんかつ食べ尽くしてきた2人には、一口目をどこから食べるかにも流儀があるんです。2人が選んだのはトンカツの真ん中、一番幅が広くて食べ応えがある場所。コレを何も付けずにいくといいます。

 なぜひと口目は中心から食べた方が良いのでしょうか? 実は、お店で出される揚げたてのとんかつは中心から食べた方が良い科学的な理由があると言うんです。「冷えてしまうとせっかく溶けていた脂が冷えて固まってしまうので、口の中に入れたときのジューシーさを感じにくくなってしまう」つまり、一番肉厚で美味しい中心部分は、肉のおいしさを感じやすい温かいうちに食べた方がよいということ!真ん中から食べるお二人は科学的にも正しかったようです。

 と、ここで山本さん牧本さん二人の意見が割れました。問題となったのは口に入れる肉の方向!山本さんが先に入れるのは脂身がついたこちら側、一方、マッキーさんはこちらの赤身側。この問題に正解はあるのでしょうか?露久保センセによると「これは好みの問題。」とのこと。豚の脂身には香り成分が多く含まれているため脂身から食べた方がそれをより多く味わうことができる」そう。
 食べる順番の次は、とんかつに付けるものの流儀!お二人は何もつけずに一口目を食べました。二人とも、一口目は何も付けず。そこから、塩、、ソースへと移行していくと言います。コレは、徐々に味を濃くしていった方が最後まで飽きずに食べられるからだと言います。

 それに合わせて、合間合間に必ずキャベツを挟む組み立て方!コレに関しても、科学的に良い理由が。人間は塩辛いものを食べ続けると、辛さを段々強く感じていくとのこと。なのでとんかつ本来のおいしさを常に感じるには、キャベツを挟み、口の中をリセットする食べ方が、理にかなっているんです。

 しかし、それでも少しずつ味に飽きてきたら「からししょうゆ」を付けると言います。これにも、科学的な理由が!辛子の成分はアリルイソチオシアネートという名前の成分がありましてこれが辛みの元。味覚や嗅覚をリフレッシュしてくれるので飽きずに食べられるんです。牧本さんは、普段「からししょうゆ」を、塩とソースの間に入れるローテーションなんだそう。

ポイント3

今回の会議で、目がテン流、とんかつのおいしい食べ方が決定したのだ!
1:一番厚い部分を最初に食べるべし。
2:塩から食べ始め、からししょうゆ、ソースと次第に味を濃く変化させていく。
3:合間にキャベツを挟むべし!