放送内容

第1440回
2018.09.02
チーズ の科学 食べ物

 見ているだけで食欲をそそるチーズ。近年、海外の様々なチーズが日本に上陸し、消費量は伸びに伸びています。さらにSNS映えするチーズも登場するなど、チーズが今大人気!ではなぜ、チーズはあんなに伸びるのでしょうか?前代未聞の実験で検証します!さらに、最近では驚きの食べ方をする人も増えてきているということで、専門家と一緒にチーズと意外に合う料理の組み合わせを見つけます。
 今回の目がテンは、とろ~り美味しいチーズを科学します。

チーズ作りを体験!

 そもそも、チーズはどのようにして生まれたのでしょうか?誕生の歴史を紐解くと、ある偶然の物語が。昔、アラビアの旅商人が、ラクダに乗って砂漠を横断していました。商人は、子羊の胃袋を乾燥させた水筒にミルクを入れ、一日の旅の終わりに喉を潤そうと水筒を傾けたところ…中から透明の液体と白い塊が出てきました。恐る恐る、その塊を食べてみたところ、すごく美味しかったのです。そう、この白い塊こそがチーズ。
 こうして生まれたチーズは、ナチュラルチーズと呼ばれ、その後世界中に拡散。
 現在、1000種類以上あると言います。一方、日本の食卓でよく見かけるのは、それとは別のプロセスチーズ。プロセスチーズは、ナチュラルチーズを原材料にして、長期保存ができるように加工したもの。

 日本では1930年代に製造が始まり、学校給食にも採用されたことから、広く普及した歴史があるのです。そんなプロセスチーズのもととなるナチュラルチーズは、現在どのように作られているのでしょうか?そこで、佐藤アナが埼玉県にある加藤牧場でチーズ作りを体験させてもらうことに。作るのは、最近人気うなぎ登りのナチュラルチーズ、カチョカバロ。イタリア原産で、スライスして軽く焦げ目がつく程度に焼いて食べるのが人気のチーズです。チーズの専門家、日本獣医生命科学大学の佐藤准教授に重要なポイントを教えてもらいながらチーズ作りを体験していきます。
 まずは、チーズの原料となる牛乳を搾るところから。ということで、早速牛舎で乳搾りをさせてもらいます。チーズの原料は、乳と塩だけ。

 たったこれだけの原料なのに、作り方を変えるだけで1000種類以上のチーズができるのです。
 搾りたての牛乳を低温で加熱殺菌したあと、チーズ作りに最適な温度にします。次に、温めた牛乳に乳酸菌をとかした牛乳を入れて30分ほど発酵。チーズ作りに欠かせないのが乳酸菌なのです。乳酸菌が入ることで、雑菌の繁殖・増殖を防ぐことができ、乳を固まりやすくしたり、チーズを美味しくする働きもあるということです。この段階では、見た目に変化はありません。
 続いて、レンネットという凝乳酵素を先ほどの鍋の中に加えます。レンネットとは、子牛や子羊の胃の中に含まれている酵素で、牛乳の中のタンパク質を固める作用があります。アラビアの商人が、偶然チーズを作り出せたのは、子羊の胃袋の水筒にレンネットがあったため。旅をしている最中、このレンネットの働きで、ミルクが固まってしまったのです。実際にレンネットを入れてみると、先ほどまで液状だった牛乳がきれいに固まっていました。

 これは、牛や羊の赤ちゃんが、乳を飲んだ時に起きている現象そのもの。消化器官が未熟な赤ちゃんは、母乳を飲んだ時にたくさんの栄養を吸収するため、レンネットの働きで胃の中の乳を固め、ゆっくりと消化させているのです。そして、この塊を専用のカッターで切り、出てきた水分を取り出します。しっかりと水分を抜き、ここからカチョカバロの特徴的な形にしていく最後の工程へ。水分を抜いた原料をお湯の中で練りながら形を整えていきます。このように練りながら作るチーズは、よく伸びるチーズになるのだとか。実は、すでにこの段階では、ピザなどでよく使われるモッツァレラチーズになっているんです。

 しかし、カチョカバロは、ここからさらに一手間。紐で結び、冷たい塩水の中につけます。これを熟成室に吊るし、そのまま1週間ほど熟成・発酵させて完成。この熟成があるのと無いのとでは、味に大きな差が生まれてしまうのです。こうした手間暇をかけることで、コクがあって伸びるチーズが出来あがるのです。

 そんなチーズですが、最近では健康面でも注目されています。東京大学獣医病理学研究室と企業の共同研究によると、マウス実験でカマンベールチーズに含まれる2つの成分が、アルツハイマー病の予防に効果があることが分かりました。まだマウスでの実験ですが、この先研究が進めば、将来的には人間への予防効果があることが証明できるかもしれません。

一番伸びるのは!?「伸び伸びチーズ選手権」!

 チーズの魅力と言えば、とろーり伸びるところ!というわけで、一番伸びるチーズはどれなのか!?いろんなチーズを伸ばしながら、伸びる秘密を探っていく実験、「伸び伸びチーズ選手権」を開催しました!
 今回、伸びる長さを計測するのは、スーパーなどで手に入りやすい6種類のチーズ。20gに切り分けたチーズを食パンの上に置き、同じ温度・時間で加熱します。それをスタート地点にセットして、片側を引っ張り、チーズが切れた時点でのパンの位置で長さを測定します。

 これは、チーズの専門家たちも伸びる長さを測る時に使う手法なのだとか。
 果たして、どのチーズが一番伸びるのでしょうか?まずは、私たちにもお馴染みの日本代表・とけるタイプのプロセスチーズ。その記録は…28cm!割と伸びた方だと言えます。次に挑戦したのは、イギリス原産のチェダーチーズ。記録は…20cmと一歩及ばず。どちらも温めると柔らかくなり、トロリと伸びました。肉や魚・卵などのタンパク質は、加熱すると固まる性質がありますが、チーズには、カゼインという加熱されても固まらない珍しい性質のタンパク質があり、これがチーズが温まると伸びる理由の一つなのです。

 続いての挑戦者は、イタリア生まれのゴルゴンゾーラチーズ。その記録は…なんとまさかの3cm!柔らかくはなっていますが、全く伸びません。続くフランス原産カマンベールチーズもほとんど伸びず。
 続いては、スイス代表・ラクレットチーズ。火であぶってとけてきたところを削り取って食べる、最近人気の有名なチーズです。これは期待できるはず!その記録は…なんと驚きの90cm!圧倒的な記録で暫定1位に躍り出ました!
 そして最後のエントリー、イタリア代表・モッツァレラチーズの登場!いざ計測を始めると…伸びる伸びる!なんと目盛りを超え、机の端ギリギリまで伸びました!その記録は…桁違いの2m74cm!というわけで、「伸び伸びチーズ選手権」は、モッツァレラチーズの優勝でした!

 では、どうしてモッツァレラチーズが伸びたのでしょうか?決め手となったのは、チーズのタンパク質同士の結合の仕方。チーズは、編み物のようにタンパク質同士が網目のような形で繋がっていて、引っ張ると伸びるようになっています。しかし、モッツァレラチーズはというと、タンパク質同士が繋がっている部分が適度に少なくなっているので、網目が広くゆるい状態になっています。だから、引っ張るとより伸びる、という仕組みになっているのです。その逆にブルーチーズやカマンベールチーズのように、カビを使って熟成させたり、熟成の時間を長くすればするほど、タンパク質自体が酵素で分解されてしまい、伸びなくなるのです。だから今回、カビで熟成させたチーズはあまり記録がでなかったのです。

チーズはどんな食材にでも合う!?

 昔から様々な料理に使われてきたチーズ。「どんな食べ物にもチーズをかければおいしくなる」と信じている『チーズ思想』という考え方もあり、女性の5人に1人が。このチーズ思想を持っているのだそう。街行く人に話を聞いてみると、味噌汁に入れたり、アイスクリームに入れたり、ご飯に混ぜたり…と驚きの食べ方が!さらに専門家の先生たちに話を聞いてみると、チーズと意外に合うかもしれない、意外な食材を提案してくれました。 そこで、色々な食材でチーズフォンデュをやってみて、チーズと相性が良い食材を分析していきます。協力してくれるのは、調理科学の専門家・露久保先生と、チーズプロフェッショナル協会の清水啓介さん。露久保先生が言うには、チーズはうまみ成分の一つであるグルタミン酸を豊富に含んでいて、それが他の食材と合わさることで、より全体のうまみをアップさせてくれることが、おいしく感じられる理由の一つなのだとか。つまりポイントは、チーズのうまみ成分グルタミン酸と他の食材の持つうまみ成分の組み合わせ。

 このポイントを元に、チーズと意外に合う組み合わせを見つけます。
 まず最初の料理は、お寿司!いくらの軍艦巻き・マグロ・サーモンをそれぞれフォンデュして試食してみると…全員の評価は○!清水さんは、お寿司の冷めたうまみが、温かいチーズで若干温められることで、うまみが増している感じがした、と感想。ではなぜ、お寿司とチーズの相性が良いのでしょうか?露久保先生は、魚介類の中にはイノシン酸といううまみ成分が豊富に含まれており、グルタミン酸とイノシン酸が合わさると、足したよりもさらにうまみがアップし、その相乗効果が引き出されるから、と解説。
 次に試すのは、筑前煮。一見合わなさそうな組み合わせですが…こちらも満場一致で○!露久保先生によると、和食の調味料の味がしっかりとついているのがポイントだと解説。

 実は、この和食の調味料と洋食のチーズには意外な共通点があります。それは、和食の調味料でよく使われる、醤油や味噌、みりんやお酢は全て発酵食品で、チーズも発酵食品だということ。発酵食品同士の味の相性が良いのは、どちらも発酵している過程でタンパク質が微生物の働きで分解されているので、うまみが増加しているから。アミノ酸や核酸といううまみ成分の元となるものも、発酵の過程で色々な種類のものが出来上がってくるので、より複雑な味わい同士が組み合わさり、味の奥行、深さが出るのだそう。そのため、うまみ成分たっぷりの調味料で作られた和食とチーズは意外にも相性が良いのです。さらには、プロセスチーズをぬか床に直接つけて、ぬか漬けにして食べるとおいしい、と清水さん。うまみ成分たっぷりのチーズは、色々な食材の味を引き立てて、美味しくしてくれるのです!

 さらに、スタジオで所さんがいくらの軍艦巻きにチーズをかけて試食!料理に牛乳を入れてまろやかにするのと同じ感覚で美味しい、とコメントしました。