放送内容

第1482回
2019.06.30
庭園 の科学 場所・建物

 雄大な自然の風景を人の手で表現した日本庭園。その美しさに世界中の人々が魅了されています。アメリカの日本庭園専門雑誌16年連続で1位に輝いた、島根県にある足立美術館の日本庭園には、日本庭園の真髄とも言える、美の科学が秘められていました。さらに、西洋庭園には日本と全く違った美しさも。
 今回の目がテンは、見ているだけで癒される「庭園」の科学です!

庭園を広く見せる、科学的トリック!

 飛鳥時代に中国大陸から庭づくりの技術がもたらされ、平安時代になると、日本独自の技術や考え方で作る「日本庭園」が誕生しました。平安時代末ごろに書かれたと言われる、現存する日本最古の庭づくりの秘伝書「国宝作庭記」には、現在にも受け継がれている、雄大さや自然美を表現するために欠かせない科学的な仕掛けが書かれているんです。では、日本庭園の科学的な仕掛けとはどんなものなのでしょうか?

 日本庭園の美しさの秘密を探るべくやってきたのは、島根県安来市にある足立美術館。この日は平日にもかかわらず、たくさんの人が訪れていました。日本一の庭園を一目見ようと、海外から訪れたお客さんもたくさん。多くの人を魅了する科学的な仕掛けとは?
 足立美術館の学芸員、山根さんに案内していただきます。早速、足立美術館の顔、枯山水庭を見せてもらうことに。

 庭とは思えない、その雄大な姿はまさに大自然そのもの。そう、日本庭園とは、いわば自然の縮図。庭という限られた空間の中で、四季折々に姿を変える、壮大な日本の原風景を表現するのが日本庭園なんです。庭の中央にある岩を山に見立て、そこから流れ落ちる滝の水が、手前の白砂で表現した海へと流れ込む枯山水の手法が使われています。
 しかし、元々この場所は、全く違う風景だったんです。よく見ると、芝の部分が小高くなっていて、その上に松が植えられています。その松のすぐ後ろは道路になっていて、車が走っているそうです。つまり松の木は、その道路と車を見えなくする役割があったのです。実はこの場所、もともとは田んぼで、平らな土地でしたが、庭を造る際、奥に行くにつれ地面を小高くして、だんだん背の高い松を植えることで、景色の邪魔になる人工物を視界から隠しているんです。

 さらに、日本庭園の驚くべき秘密が隠されているポイントが!一見すると、雄大な自然が広がっているように見えますが、庭の高い山の部分まではわずかの30mの距離。庭園の奥を小高くすることで、自然の山と日本庭園を一体化させ、庭を広く見せているのです。この技を「借景」と言います。
 借景とは、遠くの山などの景色を、庭の一部であるかのように利用する、造園技法のひとつ。

 日本庭園に詳しい東京農業大学の鈴木教授に聞いてみると、遠くの山を庭の景色として借り入れるからこそ、奥行きが深く見え、山までが庭の一部になっているような景色となっている、と言います。借景は、平安時代の庭園でも見られた、日本庭園に欠かせない技法。歴史ある京都の日本庭園でもよく見かけられます。もし、借景の山々が無かったら、日本庭園の景色は、だいぶ狭いものに感じられてしまうのです。

 そして、さらに日本庭園を広く見せる科学的な秘密が、「遠近法」。手前にある物は低く、遠くの物は段々と高い位置に配置していくという、日本画でもよく使われる演出です。日本画では、手前の低い位置に家などを配置して、そこから上に向かって段々高さを重ねて奥行きを表現する技法がよく使われますが、この庭園では、手前に低い岩や木を配置して、それが何重にも重なり借景の一番高い山に向かうことで奥行きを感じさせ、実際よりも庭を広く見せているんです。

 さらに、庭を広く見せる仕掛けが。赤松と赤松の間から、遠くに滝が流れ落ちる景色が見え、それが山々を抜け、庭の池へと流れ込んでいるように見えます。

 実は、滝は人工物で、水を循環させているだけなので、庭に流れ込んでいるわけではありません。滝が遠くの山から流れてきて、目の前の庭にある池にまで流れてくる、という自然の摂理を感じさせる構成になっていて、実際よりも庭を広く感じさせているのです。この広大な自然を暗示させる造りが、庭園を広く見せる秘密だったのです。

 こうした暗示的効果は、他の所にも。案内して頂いたのは、開館当初は美術館の入口だったという門。現在は使われておらず、庭の一部になっています。

 門までの距離はおよそ20メートル。門の奥は、小道が続いているように見えるので、門の向こう側にも庭が続いているように見え、実際よりも奥行きが感じられるようになっています。実は、門の向こうは地元の人が利用している公道があるのですが、門の奥の公道を挟んだ場所に小道を作ることで、この池の庭を広く見せる奥行きを演出しているのです。しかも、短い小道をカーブさせ、先を見えなくすることで、あたかも奥まで庭が続いているように暗示させる工夫もされています。

 日本庭園は、こうした様々な仕掛けを駆使して、狭い庭の中に広大な自然を表現しているんです。
 石庭で有名な京都の龍安寺では、奥にある石を小さくすることで、より奥行きを感じさせたり、塀の高さを端と端で50cmも高低差をつけたりすることで、遠近法を利用した庭を広く感じさせる仕掛けを行っています。

日本画をヒントにした庭園の構図!

 日本庭園の次なる秘密を探るべく、続いて案内して頂いたのは、足立美術館の日本庭園、一番の見どころ「生の額絵」。

 大自然を表現する日本庭園。窓枠から見える四季折々の風景は、まさに「生きた絵画」です。
 自然の風景を上手に切り取りより魅力的に見せることを、日本では古くから「生けどる」と言います。足立美術館では床の間の壁に穴をあけた「生の掛軸」や「生の衝立」など、景色を生けどって見せる手法がたくさん使われています。
 足立美術館の創設者である足立全康が、「庭園も一幅の絵画である」という言葉を残していて、日本庭園も絵画としてもらいたい、という考えからこのような仕掛けを作ったのだそう。足立美術館では、窓枠から見える庭園の構図が一番美しく見えるよう、計算され作られているんです。
 先ほどの庭も、クスノキの幹が手前に大きく見えるように作られていました。こうした手法は、葛飾北斎や歌川広重といった日本画で多く見られる、手前に大きいものを置く絵画の構図を取り入れたもので、手前に木などの大きいものを配置することで、遠近感を強調し、奥の景色を引き立てていたのです。

 画にあるような理想化された風景からヒントにして、庭に取り入れていくのは、昔から日本庭園で行われていることだそうです。日本最古の庭園デザインの手法が書かれた作庭記には、日本庭園の原則の一つに日本の優れた名所の風景を庭の中に散りばめるように書かれています。昔の人は、全国の景勝地を簡単には見られなかったので、絵画に描かれた風景を庭づくりの参考にしていました。そのため、日本画のようなエッセンスも取り入れられているんです。

 さらに、日本庭園の美しさの秘密はこれだけではありません。続いて案内して頂いたのは、青々とした苔が美しい京風の庭園、苔庭。

 そこに植えられていた赤松。実は、1本1本がどこから見ても重ならないように位置を計算して植えられています。こうすることで、バランスが良くなって、より自然に近い形で見ることができるようになっているのです。

 鈴木教授によると、自然の姿や景色は、とにかくランダムなので、自然にしようとするほど、不等辺な形の方が自然に近く見えるようになるのだそう。木が一直線上や等間隔に並んでいると自然の風景には見えないので、日本庭園では木を植える際、配置を不等辺三角形にするのが原則となっていて、規則的に並ばないように工夫されているのです。
 自然の姿を観察してきた古の人たちから、日本庭園を美しく見せるための技法が受け継がれてきたんです。

日本とは異なる価値観!西洋庭園の美

 さらに、日本庭園とは全く違った形の魅力がある西洋庭園の秘密を探るべく、西洋庭園の代表的な庭園があるという千葉県八千代市の京成バラ園を訪れました。西洋庭園の魅力を解説して頂くのが、世界各地の庭園を訪れ、日夜研究に励んでいる日本大学理工学部の押田先生と京成バラ園の園長・小河さん。
 最初に案内して頂いたのは、色とりどりのバラが整えて植えられた、美しい整形式庭園。

 17世紀、測量技術が発達したフランスから広がった整形式庭園の特徴は、左右対称や、直線や円で幾何学模様を作りだす、人工的な美しさです。日本庭園とは全く違う美的感覚ですが、一体なぜでしょう?
 押田先生は、日本の場合は自然が豊かな国なので、自然を敬うような庭園の形になっていて、フランスも比較的植物の多い国なのですが、王様の力は植物をねじ伏せる、自然を支配するものであると考えられていたため、当時、力のあった王様や支配者が権力を示すために、わざと人工的に造りこんでいった、と解説します。

 このような自然に対する考え方の違いが、庭園にも現れています。そのため、西洋庭園と日本庭園では、庭園の見方にも違いがあります。
 西洋庭園では、王様が広大な庭を自分の風景だと示すために、わざと一段高いところにベランダやテラスを設けて、そこから庭を見るように向けているのですが、日本庭園は縁側など目線の高さで見ることを想定しているため、視線が低く作られているのです。

 そして、西洋庭園といえば、美しいバラ。京成バラ園では1600品種、1万株以上のバラが咲き誇り、来る人々の心を魅了しています。すると、園長の小河さんが、とあるバラを見せてくれることに。それは・・・黄色いバラの原種。バラの原種は様々な種類があり、多様な色や形のものが存在します。

 昔の人が、こうしたバラを交配していくことで、見栄えの良い八重咲のバラを誕生させたのです。人が作り出したバラは世界に5、6万種ほどと言われていますが、あまりに多いため、正確な数は把握しきれていません。西洋庭園には、自然を支配するという思想があるのですが、植物そのものを支配するために人工的に様々な品種のバラを作り、庭園に多く使われているのです。

 西洋庭園と日本庭園では、植物の楽しみ方にも大きな違いが。
 日本庭園の良さは、四季の風景の中に彩りある自然の移り変わりを楽しめること。それに対し、西洋庭園の場合は、植物が咲き誇るタイミングを揃え、一斉に圧倒的な色彩と花の量を楽しめる圧倒的な美を表現しているのです。
 まさにその国の気候や文化、美的価値観がそれぞれの庭園に現れているのです。