放送内容

第1481回
2019.06.23
マンホール の科学 物・その他

 近年、都市化や温暖化などを原因とする集中豪雨が日本各地で発生しています。その影響から、マンホールから水が吹き上がったり、フタが飛んでしまうことも!
 しかし、我々の知らないところでマンホールが進化!2018年12月にはマンホールのJIS規格も新しくなっていたんです。そこで、マンホールのフタを作る工場に行ってみました。工場で見つけた進化したマンホールとは?さらに、水害対策の巨大地下施設へ!
 というわけで、今回の目がテンは!「マンホールの科学」です!

マンホールって何?

 街中でよく見るマンホールは、地下に埋まった設備にアクセスするためのもので、その多くは下水道につながっています。つまり、普段目にしているのはフタの部分。

 マンホールに詳しい日本大学の森田教授に聞いてみると、実は、今のマンホールには課題があるそうです。
 大都市の下水は生活排水も雨水も同じ管の中を流れ、弱い雨の時はすべての水を水再生センターで浄化するようにしています。しかし、強い雨が降ると、街を浸水から守るために、汚水混じりの雨が川に流れ出る仕組みが設けてあるんです。

 森田教授によると、この仕組みは5年に1回の大雨、量で言うと1時間に50ミリぐらいの雨には耐えられるそう。ちなみにバケツをひっくり返した時の雨は、20ミリぐらい。少なくとも東京都では100年前から下水道整備を進めてきています。ところが、全国のアメダスから集計した1時間当たり50ミリ以上の豪雨の発生回数は、40年前とここ10年を比べてみると、1.4倍に増加。

 短い頻度で強い雨が降るようになって、それに伴い下水道が氾濫して浸水が起きているのが現状。
 では、豪雨によって下水道の容量を超えてしまった時、地下はどのような状況になっているのでしょうか?

 そこで、マンホールの研究を行う施設にいってみました。
 普段地下に埋まっていて見ることができない下水道管。施設の中には、これを実際の1/2スケールで再現したものがあり、大雨が降ったその時、地下でどのように水や空気が動いているのか見ることができます。
 垂直に立っている管がマンホール。上にはフタが着いています。

 流れる水の先にはタンクがあり、それは下水の水を逃がしている川を想定しています。
 それでは実験開始。タンクの中を見てみると、川の水位がどんどん上がっていきます。そして、川の水が下水の出口をふさいでしまうと、跳ね返った水が上流側へ移動していきます。

 水が跳ね返ることで管の中の空気を圧縮しながら上流へと移動。その圧縮された空気がマンホールのフタを押し上げます。支えがないとフタは飛んでいってしまいます。
 そして、下水管が満タンになってしまった場合は水が噴き出てしまいます。この水はマンホールのフタで防ぐことはできません。

 では、これが実物大になるとどうなるのか?まずは旧型のフタで実験です。ポンプでマンホールの下に水を送り、大雨の状態にします。
 すると!安全のためフタが飛ばないようになっているものの重さ40kgの鉄ぶたがものすごい勢いで跳ね上がりました。

 実際は水が濁っているので、穴が開いていることすら見えなくなり、知らずに中に転落してしまう危険性があります。しかし、去年改訂されたJIS規格で作られたマンホールでは、こうならないそうです。
 新型マンホールで同じ実験をしてみます。すると、マンホールの蓋はガタガタと大きな音を立て始めした。この音が鳴ったのは空気を徐々に逃がすための仕組み。その後、5m程度、水が吹き上がりました。しかし、肝心のフタは外れていません。

 新しいフタの縁の部分を見てみると、水が噴き出た瞬間に1cm程度浮き上がりましたが、そのまま耐え続けています。この違いはいったい何なのでしょう?
 旧型のフタというのはフタの重さで抑えているだけですが、新しいJIS規格のフタでは、蝶番とロックという部品にそれぞれツメがあり、このツメがフタの枠に引っかかります。

 重さだけで圧力を抑えていた旧型のフタはある程度以上の空気圧でフタが外れてしまいました。しかし、新JIS規格のフタはツメが圧力をうまく逃がしつつ、外れてしまうのを防いでくれていたんです。
 目に見えないところでマンホールは目覚ましい進化を遂げていました!

マンホールの作り方

 やってきたのは埼玉県にある工場。マンホールの原材料は鉄。まずはスクラップなどの鉄を、電気炉で1500度に熱し溶かします。そして、どろどろに溶けた鉄に、マグネシウムなどを混ぜて合金にします。こうすることで、粘り強く割れにくい鉄になるといいます。
 材料の鉄を作るのと同時に行われるのが、マンホールの型づくり。マンホールの元となる木の型に、形を保つ性質を持つ砂をプレス機で押し付けます。この砂は、鋳物をつくるときに使われるもので普段はさらさらですが力を加えると固まります。機械からはマンホール柄の形がついた砂が出てきます。
 表の柄になったものと裏の構造になっているもの2つで1セット。形が内側になるように貼り合わせることで中にはマンホールと同じ形の空間ができます。
 そして、先ほどの溶けた鉄の登場です。昔はすべて職人さんによる手作業で行われていました。現在この工場では主に熟練職人の動きをトレースする機械が鉄を砂型に流し込みます。そして、およそ2時間後、鉄が固まり次の工程へ。崩された砂から姿を現したのは、大まかに形づくられたマンホールのフタ。その後、バリ取りや、精密加工、塗装などの工程を経て完成です!

 ところで、最近はカラーのマンホールを見かけることがあります。

 個性的なデザインも多くマンホールファンも結構いるそうで、下水道のPRのため各自治体がデザインをしたマンホールが書かれた、マンホールカードというものが478種類出されているんです。例えば、宇宙船が描かれているのは、宇宙開発の拠点があるつくば市、さらにキティちゃんが描かれているのはサンリオのテーマパークがある多摩市です。
 そもそもカラーマンホールは消火栓などの非常用設備を目立たせることから始まりました。形を作るのは大分機械化されていましたが、色をつける工程はほとんどが手作業。樹脂を流し込むことで色を付けます。
 さらに、最新のカラーマンホールはさらなる進化を遂げているといいます。それが、蓄光塗料を使ったマンホール。

 停電をしてしまったり、災害が起きた時に、あかりがなくてもうっすら分かるようになっています。町の安全を守るためにマンホールは日夜進化し続けています!

マンホールに入ってみよう

 やってきたのは、中野区から杉並区にかけて神田川付近に作られた地下50mの地下巨大施設。直径8.5m、全長2.2km、日本最大の下水道です。

 大量に雨が降ってしまったとき、周辺の下水を一時的にためておくことで浸水から街を守ります。貯留容量は25mプール500杯分に相当します。
 この地域では以前、多い時だと年間で数千棟が浸水していました。しかし、この施設が完成した平成18年以降はその被害はほとんどなくなりました。

 そして最後にとっておきの巨大治水施設をご紹介。都心部だけでなく、周辺都市も都市化と集中豪雨による被害を受けてしまっています。
 今回注目したのは埼玉県東部の春日部市周辺。多くの川が流れるこの一帯はかつて水田地帯でした。しかし、東京の周辺都市として都市化が進みました。田畑は住宅地に変わり、農業にとって大切だった川の水が、それを吸い込む土を失い、災いの原因になってしまったのです。
 そこで作られた施設が、首都圏外郭放水路。この地域に洪水を引き起こしていた5本の川と地下でつながっている地下神殿。

 大雨の時は溢れそうな川の水を取り入れて洪水のリスクが低い江戸川に放水します。

 一度に処理できる水の量は膨大で、なんと1秒間で25mプールを空っぽにできるほどのパワーをもつポンプが設置されています。
 その効果は著しく、例えば2000年の台風ではこのように水没してしまった街の交差点が、この施設が一部稼働を始めた後にきた同程度の台風では全く水没しなくなりました。その被害軽減効果は現時点で1000億円と試算されています。