放送内容

第1493回
2019.09.22
自動販売機 の科学 物・その他

 街を歩けば、いたるところで目にする自動販売機。実は、日本は世界屈指の“自販機大国”。その数、全国でおよそ294万台。国土面積で考えると、普及率が世界一なんです。そこで今回、意外と知らない!“自販機ができるまで”を徹底調査!一台に凝縮された自販機大国・日本の技術力とは!?さらに!全国の自動販売機を巡ること20年!マニア一押しの“超ハイテク自販機”も!日本人ならではの“気遣い”から生まれた世界初の機能とは!?
 今回の目がテンは、世界に誇る日本の技術力!自動販売機を科学します!

自動販売機ができるまで

 向かったのは、自動販売機製造 国内トップシェアを誇る工場。工場長の山本さんと、製造部の宮本さん。「この工場では、缶・ペットボトル、紙コップの飲料用の自動販売機を製造しています。」では、自販機はここでどのようにして作られているのでしょうか?
 さっそく目にしたのは、自動販売機の外箱。自販機の外箱の部分は、鉄をベースにした合金の"鋼板"で作られています。これを機械で伸ばし、外箱のサイズに切断。そして、自販機の箱の形に折り曲げていきます。これで、側面と天井部分ができ、自販機の原型が現れました。
 続いては、先程折り曲げた鋼板に背面部分を取り付け、そこへ、自販機の下の部分にあたる「基台」を溶接。ここでは6台のロボットが大活躍。素早い動きで、あっという間に溶接を行って行きます。こうして、外箱が完成。徐々に自販機のカタチへ近づいてきました。

 塗装を終えたら、外箱の中に部品を取り付ける「組み立て」の工程。自販機の温度を一定に保つ役割がある断熱材。これを箱の内側、すべての面に敷き詰めます。
 さらに、商品を収納する「ラック」と呼ばれる棚を3つ取り付け、それぞれのラックの間を真空断熱材で仕切ります。実はこれ、商品の温度管理をするうえでとても重要な役割を果たしており、その説明は後ほど…。
 続いては、自販機の扉部分の組み立て作業。扉の裏側から、商品の取り出し口や、ボタンなどを取り付けます。そして、本体と扉をドッキング。こうして、作業開始からおよそ8時間。機械と人の手によりついに自動販売機が完成しました!

知られざる自販機ミステリー!

 ふだん何気なく使っている自動販売機。しかし、そこには、言われてみれば気になるいくつかの謎が。

「自販機から落ちてくる商品は…どうして傷つかないの?」

実は、商品の破損を防ぐ“3つの秘密”が隠されていました。
 1つ目は、“商品シュート”。
 これは、落ちてくる商品を受け止める斜めに作られたクッションのこと。弾力性のある素材で落下の衝撃を和らげてくれるんです。

 そして商品シュートを通った商品を次に待ち受けるのが、“取出口フラッパー”。
 普段よく見る取り出し口の、さらに奥にある仕切り板です。商品が取り出し口へ出る直前、その勢いを抑えてくれるんです。商品の形状に合わせた丸みのあるボディで、優しく受け止めてくれます。

 こうして、取り出し口フラッパーを飛び出した商品を最後に受け止めるのが“取出口の底”。
 商品取り出し口の底には、クッション性のある素材が使われていて、落下の衝撃を吸収していたんです。

 さらにここで意外な事実!実は、商品が最も傷つきやすいのは“補充する時”。
 自販機の断面を切ったものを見ると、ヘビのように蛇行しているラックが。こちらは、サーペンタインというラック。英語で“蛇”を意味するサーペント。その派生語となるサーペンタインは“蛇行する”と訳されます。
 この構造が直列の場合、スピードがついたまま落下するため、商品同士の衝撃が強く、傷ついてしまうことも。しかし、サーペンタインは、落下時の速度を吸収してくれるため、商品同士の衝撃を和らげ、容器の破損を防いでいたんです。

 実はこの技術、今からおよそ50年前、1972年に日本でつくられたもの。商品を、より良い状態で届けたいという開発者たちの想いが詰まったきめ細やかな技術だったんです。

続いての自販機ミステリー。

「温かい飲み物と冷たい飲み物は…どうやって分けているの?」

その謎を解き明かすカギは、2つのすごい技術が関係していたんです。
 まず1つ目は、「冷却ユニット」。それぞれの商品が入る3つの部屋。その下にある、温度を調節する機械、それが「冷却ユニット」。これ1台で部屋ごとに冷却したり、加熱したりすることができるんです。通常、冷却は5度、加熱は55度程度に設定されています。

 そして、2つ目のスゴい技術というのが、先程、組み立ての工程で、商品ラックの間に挿入していた「真空断熱材」。気体の出入りを極限まで抑え、熱伝導を防止。これにより、冷気と暖気が行き来できず部屋ごとに、冷温を保つことができるんです。

 実は、冷たいと温かいを同時に販売できるというのは、日本の自動販売機の技術。1973年、温かい飲料の自動販売機が誕生。当時、夏は冷たい飲料、冬は温かい飲料と季節によって温度を変えるいわゆる“切替式”の自販機でした。
 その1年後。開発者の努力が実を結び、ついに世界初!1台で冷たい飲料と温かい飲料を同時に販売できる自販機が誕生しました。
 さらに、現在の自販機にはこんな技術も!自販機ができた当時は内部全ての商品を冷やしたり、温めたりしていました。しかし現在では、1台1台の自販機にコンピューターが内蔵。もうすぐ売れる商品のみ部分的に温度調整することができるようになりました。売れ行きや季節に応じて、温度調整することで、本数を判断し、電力消費を抑えていたんです。自販機大国・日本。そこには、私たちが知らなかった、驚きの技術革新があったんです!

マニア一押し!ユニーク自販機

 実はいま、さまざまな特殊機能を兼ね備えた“ハイテク自販機”が増えてきているんです。今回一緒に調査をしていただくのは、自販機研究家の野村誠さん。
 普段はシステムエンジニアとして働く傍ら、全国のユニークな自販機を訪ねること20年。これまで10万台以上もの自販機を見てきた筋金入りの自販機マニアです。ここからは、自販機研究家・野村さん今注目するユニーク自販機ベスト3をご紹介。

まずは第3位。「とにかく“やさしい”自販機」
 それが、日本にたった1台。バナナ専用の自販機。値段は1本150円とやさしい値段とは思えませんが、中のバナナが悪くならないように、温度が13度で設定されています。実は13度がバナナの鮮度を維持するのに最も適した温度だそうで、これ以上、バナナの熟成が進まない温度。12度以下だと、早く皮が黒ずんでしまいます。つまり、鮮度の良い状態でバナナの熟成を止め、さらにキレイに保つことができる、それが13度だったんです。さらに、バナナを傷つけないよう、受け取り口には、落ちた時の衝撃を吸収するやわらかいマットが。
 一体どれだけ衝撃を吸収できるのか、生卵を使って実験しましたが、マットのおかげでヒビすら入らず!

 見た目も味もバナナのベストな状態を保つとにかくやさしい自販機だったんです!

 続いて第2位。「職人もビックリなスゴ技自販機!」
 1本500円、わずか10分で作れちゃうはんこの自販機。では、どんな名字でも簡単に彫ることができるのでしょうか?そこで!その画数、なんと54画。日本一画数が多い苗字その名も「躑躅森」。今回、日本におよそ80人しかいないという躑躅森さんとのコンタクトに成功。はんこに関する苦労をうかがうと、あまりの字の複雑さに、はんこ職人に気を遣い間違いを指摘しづらいという悩みも。そんな全国の躑躅森さんの願いをこの自販機に託し、世紀の検証スタートです。
 まずは、画面ではんこの情報を入力。種類やフォント、さらに彫りたい文字を選択。果たして、はんこの自販機で日本一画数が多い“躑躅森”は彫れるのでしょうか?出来上がりを待つ間、今回特別に、はんこを彫っている機械の中を見せてもらいました。印材に細い針のようなもので、文字を彫っていきます。
 そして、待つこと10分。その出来栄えは、職人さながら!細部までくっきり!

 はんこの自販機は、どんな名字でもたった10分で彫れる、職人もビックリのスゴ技自販機でした!

 栄えある1位。「世界初!気が利く自販機!」
 こちらは、ミル挽珈琲という自動販売機。一見、普通によくある珈琲の自動販売機に見えますが、コーヒーの出来上がりを待つ間、自販機内に設置されたカメラで豆を挽いている様子を見ることができ、ドリップを待つ間、香りも楽しめるんです。
 とはいえ、正直それほど驚きの機能とは思えませんが、実は、野村さんイチオシポイントはこのあとにあったんです。
 ドリップを終え、いよいよコーヒーが出てくるというその時!なんと、自動でコーヒーにフタが!?フタを付けてくれる機能は、自販機としては世界初の技術!

 フタをつける時、型崩れしにくい強度のあるカップを開発。さらに素材の異なるフタとの強度のバランスにも工夫を加えた結果、機械を回転させながら、フタに均一に力をかけることで、見事、自動的にフタをすることに成功したんです。一見地味に見えますが、珈琲がこぼれにくく、持ち運びも楽々。日本人ならではの気遣いが生んだサービス精神満点の機能だったんです。