放送内容

第1494回
2019.09.29
伝統漁 の科学 物・その他 水中の動物

 日本各地で、古くから受け継がれてきた伝統漁。そんな伝統漁も時代の変化や後継者不足で消えつつあります。しかし、資源を取りすぎない持続可能な漁法が世界的にも見直されているんです!そこで、渡辺裕太さんが漁師さんに弟子入りして、受け継がれてきた伝統漁を体験!
 今回は、声で魚を獲る!?沖縄伝統漁の「あみじけ」を科学します!

声で魚を獲る「あみじけ」!

 今回、裕太さんが訪れたのは、沖縄県の読谷村。沖縄本島の中部にある村で、目の前にはコバルトブルーの海が広がっています。
 早速、伝統漁を行っている漁師さんに会いにいきます!裕太さんが弟子入りするのは、沖縄で伝統漁を行っている、漁師歴48年の福地進さん。福地さんが行っている伝統漁とは…この地方で「あみじけ」と呼ばれる追い込み漁。
 追い込み漁とは、海中に網を張り、漁船や人が魚を追い込んで獲る漁法。人が潜って追い込む場合、複数の人で魚を追い込むのが一般的なのですが、福地さんは1人で行っています。以前は、5、6人でやる追い込み漁だったのですが、高齢化で一緒に漁をしていた漁師さんが減少し、福地さん1人になってしまったのだそう。福地さんは15歳のときから漁を始め、20年ほど前からは、1人でやっているのです。
 では、福地さんはどうやって魚を追い込むのでしょうか?早速、漁を行う場所へ向かいます。やってきたのは、目の前に大きな海が広がる浜。ここから出港します。漁をする場所は、水平線近くの白く見えるところと青く見えるところの境目。

 引き潮時には、魚が潮に乗って沖に向かっていく習性があるので、それを利用して網に追い込んでいくのだそうです。
 船に乗り込み、いざ出発!漁を行うポイントは30か所近くあり、福地さんは長年の経験から、その日の天候や海の状況に合わせて選んでいるといいます。裕太さん、最初は見学させてもらうことに。まず福地さんは、網を手にして海の中へ。そして、ポイントについたところで、水深6メートルの場所に手際よく、網を広げていきます。実は、この網を仕掛ける場所が重要なんです。網を設置する場所は、サンゴ礁とサンゴ礁の間。この水路が、魚の通り道になっているのです。

 周りより深くなっており、魚が引き潮に乗って、浅瀬から沖に向かう通り道となっているので、この水路に網を張り、魚を追い込んでいくのです。網の設置が終わり、福地さんは、網からおよそ20メートル後方から魚を追い込んでいきます。
 ここからはスピード勝負!再び海底まで潜り、なにやら石を拾っています。そのまま浮上すると…なんと、水面から石を投げました!その後も、何度も石を投げています。実はこれ、石に驚いた魚が網の方へ逃げていくように誘導しているんです。一人で魚を追い込まないといけないため、何度も石を拾い、投げ続けています。
 そしてここからは、ノンストップで魚を網まで追い込みます!福地さん、水面を叩きながら、早いスピードで泳ぎ始めました。これは、大きな音を立てながら泳ぐことで、魚を網の方に追い込んでいるのです。泳ぎである程度魚を追い込むと、今度は、一気に海底まで潜り、海底の石を拾い、叩いて魚を追い込みます。そして!福地さんが、「ウォ、ウォ、ウォ」と 声を出し始めました!すると、魚たちがパニックになったのか、網の方に追い込まれ…網には、たくさんの魚がかかっていました。

 網の中には、ブダイという魚など、様々な種類が。1回の漁にかかる時間は、およそ10分。20匹以上の魚を取ることができました。
 でも一体、なぜ魚は網に追い込まれたのでしょうか。実は、魚には音を感知する器官があるんです。魚の頭の中には、人間の耳のような働きをする内耳(ないじ)と呼ばれる部分があり、そこで音を感じ、認識しているのです。

 聞き慣れない、石を叩く音や人の声に魚は驚き、逃げているのだそうです。
 福地さんは、ほぼ毎日漁にでており、クーラーボックス一杯分を目標に獲っています。大きな魚は、市場でセリに出したり、小さい魚は、近所の人と野菜の物々交換をしたりしているんです。ちなみに、市場ではクーラーボックス1杯分で5000円から6000円ほどになります。
 福地さんは、漁をする上で大切にしていることがあると言います。それは、「資源を残しながら、獲りすぎないようにする」ということ。漁の時間を増やせば、魚をもっと獲ることもできますが、上限を決めて翌日も漁に出ることができる環境を守ることが大切だそうです。
 沖縄の伝統漁、あみじけは、大事な海の資源を守るエコな漁だったんです。

伝統漁師に裕太さんが弟子入り!

 今回、伝統漁の技術を学びに弟子入りした裕太さん。水深2メートルの場所で早速練習開始です!
 まずは、素潜りの練習から。裕太さん、なかなか上手に潜ることができています。他にも、水面を叩きながら泳いだり、水中で石を叩いたり…そして、最も重要な声を出す練習も行いました。みっちり2時間、魚を追い込む練習を行い、福地さんからも太鼓判を押してもらえるほど、上達!明日は、いよいよ一人で漁を行います。
 練習のあとは、福地さんの自宅で、夕食をごちそうになります。自宅には、奥さんとお孫さんがいました。普段は、奥さんと二人暮らしですが、この日は、家族が集まる日だったようで、福地さんの家族たちと一緒に食卓を囲みます。今日の夕飯は、漁でとったブダイのお刺身にブダイの素揚げ。

 ご家族とも色々なお話しをさせてもらいました。60歳を超えても“あみじけ”を続ける福地さん。魚を後ろから追い込む時、魚がいっせいに網に向かっていく様子を目の前で見られるのが、この漁の一番の醍醐味だと語ります。その後、裕太さんはそのまま泊めて頂いていたんですが、福地さんがいつも寝ている場所は、自宅ではなく、漁の道具を置いてある漁師小屋。そこで、福地さんと一緒に寝させてもらうことに。そして、いよいよ翌日。裕太さんが1人で漁を行う日です。漁はうまくいくのでしょうか。

裕太さんが1人で漁へ!

 いよいよ、裕太さんが一人で漁を行う日。不安を感じながらも、いよいよ海へ向かいます。果たして、うまく漁をすることができるのでしょうか。ドキドキしながらポイントに向かいます。網を仕掛ける水路は、経験が必要なため、福地さんに決めてもらいました。水深4メートルのところにある水路に到着し、網を広げていきます。隙間ができないよう、しっかりと岩場にくっつけていくのが大事。こうして網の設置は完了。そして、仕掛けた網のおよそ10メートル後方から、魚を追い込んでいきます。
 いよいよ、魚の追い込み!すると裕太さん、緊張のあまり、石を投げる工程を忘れ、いきなり水面を泳ぎ始めました。そして、一気に海底へ。石を拾って、叩き始めました。しかし、その直後、息が続かず、浮上。魚を網に追い込むまで至りませんでした。
 気を取り直して、再挑戦!果たしてうまくいくのか?先ほど同様、海底まで一気に潜りますが、今度は海底でうまく石を拾うことができませんでした。それでも、そのまま続行!「ウォ!ウォ!」と、大きな声を出して、魚を追い込んでいきます!すると…魚が網の方へ!裕太さん、さらに最後の一押しで声を出します!すると、追い込まれていた魚が一気に網に引っ掛かりました!これには、裕太さんもご満悦!網には、たくさんの魚が掛かり、見事大成功!

 船に上がり、充実した表情を見せます。そして、漁を無事終え、浜に戻ってきました。福地さんいわく、裕太さんのように潜ってから水中でスムーズに進むのは、なかなか難しいらしく、普通は1日、2日では出来ないのだそう。裕太さん、見事に福地さんのお墨付きを頂きました!ちなみに裕太さん、この日も福地さん宅でご飯をご馳走になり、漁師小屋に泊まらせてもらいました。福地さんにたくさんお世話になりましたが、伝統漁の良さを大いに体験することができました!