放送内容

第1534回
2020.07.12
水道水 の科学 物・その他

 今からさかのぼること31年。平成元年10月に放送された、所さんの目がテン!第3回。その時のテーマは「水」。当時、東京都の一部の水道水は、おいしくないと言われていました。番組が行なった調査では、50%もの人が水道水を直接飲まないという結果が。でも、最近は水道水がおいしくなったと聞いたことありませんか?
 そこで、こんな実験。水道水と、飲みやすい軟水のミネラルウォーター、日本人が飲み慣れていない硬水のミネラルウォーターとで飲み比べてみます。水の温度は常温です。被験者10人を集め、一番おいしいものから、3点、2点、1点と点数をつけてもらいました。すると、水道水が26点、軟水のミネラルウォーターが20点、硬水のミネラルウォーターが14点という結果に。やはり、水道水は美味しくなっていたのです!
 今回の目がテン!は、「知らないうちにおいしくなった水道水の科学」です!

塩素が減った水道水

 水をおいしくないと感じる理由は、いくつかあります。その1つが「カルキ臭い」などと言われる塩素です。塩素は、基本的に硬水、軟水ともにミネラルウォーターには入っていません。その一方で、30年前のある浄水場では、水1リットルあたり1.3mg入ることがあり、カルキ臭いと言われる原因になっていました。ところが、現在は3分の1の0.4mgにまで抑えられています。

 そんな水道水の品質向上の工夫とは?

水道水の仕組み

 取材で向かったのは神奈川県。神奈川県の中央を流れる相模川は様々な自治体の水源になっています。見学をさせてもらった場所では、2か所の浄水場に向けて毎秒8トン、水路に水を取り込んでいました。川から引き込まれた水が流れてくるのは浄水場。ここで、川の水をきれいにして飲めるようにします。
 訪れた横須賀市水道局の浄水場管理室では、川からの水、各家庭に流す水、両方の水質をチェック。24時間365日、全体で40個のチェック項目があるんです。水の状態を見て使用する薬品の量や処理の工程を調整します。
 この浄水場は、取り込んだ川の水を6つの工程できれいにしています。

 まずは、急速かくはん池。最初に塩素を入れることで、浄水場で雑菌が繁殖しないようにします。さらに、ごみを固める「PAC」という薬品も入れられます。すると、水に含まれる微生物や固形物が薬品に反応して茶色い泡が発生。

 それだけでなく、目に見えなかったゴミが、ツブツブした小さい塊になってでてきました。

 この水は沈殿池という場所に流れていきます。そこで水の中を漂っていたゴミは、沈めて取り除かれます。
 ゴミを沈めた後の水はどのくらいきれいになったのか比べてみました。相模川の取水口で汲んだ水は、ゴミを沈殿させた後と比べると、ほんのり茶色がかっていて濁っていました。ゴミを沈めた後の水は、飲み水でもおかしくないくらいキレイだったんです。

「PAC」の正体とは

 川から来た水に含まれる小さなゴミを取り除いた「PAC」という薬品の正体は何だったのでしょう。水質浄化の専門家、中央大学の山村教授によると、それはポリ塩化アルミニウムという薬品。アルミは、水に溶けると水酸化アルミニウムという物質に変わる。その水酸化アルミニウムが、汚れを落とす役割をしているんです。
 ここで実験。用意したのは、東京の江戸川で汲んだ水。そこに、ポリ塩化アルミニウムの液を入れて、かき混ぜること5分…水が透明に。

 なぜアルミがゴミを集めてくれたのでしょうか?
 江戸川の水が、なぜ濁っているかというと、水の中に小さな粒子があるから。粒子状のゴミは-の電気を周りに帯びているため、ゴミ同士が反発しあって、くっつきません。しかし、水酸化アルミニウムは、水の中で+の電気をもっているため、よくかき混ぜると、ゴミと水酸化アルミニウムが、電気的にくっつきます。すると、ゴミ同士が電気的に反発しなくなるため、塊になりやすくなるのです。そこで、大きくなったモノ同士をさらにぶつけると、もっと大きくなる。大きくして沈める。これを「凝集」といいます。これと同じことが、浄水場でも行われていたということなのです。

 これは、水以外でもできるのでしょうか。川の水よりも透明度がない、牛乳、野菜ジュース、味噌汁で試してみました。
 ポリ塩化アルミニウムをいれて30分程度混ぜた後、静かに置いておくと、液体と固体に分離しました。

 上澄みだけをとってみると、真っ白だった牛乳に透明感が出てきました。飲んでみると、ヨーグルトっぽい酸っぱさが。牛乳のまろやかさを生む脂肪分やタンパク質が取り除かれ、酸っぱい乳酸の味が際立った可能性があるそうです。
 続いては野菜ジュース。少し苦く、薄く野菜ジュースの風味はありながら、後味がとても悪いという結果に。ビタミンなどの、水溶性の栄養素は溶け込んだままだそうです。
 最後の味噌汁は…出汁!味噌汁は凝集して沈殿させると、出汁に戻りました。味噌汁も、旨味成分や塩分は水に溶け込む水溶性なので、沈殿せず残ったのです。

高度浄水処理

 凝集や、ろ過だけでは取り切れなかった成分を分解できるようになった仕組みというのが、「高度浄水処理」という、30年前にはなかった技術。
 その1つが、汚れをオゾンで分解するというもの。オゾンで処理すると、一体どうなるのか?出汁に戻った味噌汁を、オゾン発生装置に持っていきます。
 装置で発生したオゾンを出汁に送り込みます。オゾンを細かい泡にして、水とオゾンが接触する面積を増やします。泡を発生させるやいなや、みるみるうちに透明になりました。有機物の構造をオゾンが分解し、その結果、色がなくなったのです。
 空気に含まれる酸素は、酸素原子が2つ結びついたO2(オーツ―)ですが、オゾンは3つ結びついたO3(オースリー)。このオゾンは、それ自体が酸化力を持つ上に、水に反応すると、非常に強い酸化力を持った活性酸素を生みます。その強い酸化力が、ニオイや色、味を作る成分を分解するのです。そのため、出汁に戻った味噌汁が完全に透明になったというわけなのです。

 高度浄水処理で、もう1つ重要なのが、活性炭。活性炭の中には、たくさん小さな穴が空いていて、水の中のオゾンや有機物を吸着してくれます。今回は5分かき混ぜて、残ったオゾンや分解された有機物を吸着させました。
 高度浄水処理された味噌汁は、限りなく水に近づいた味。味噌汁を、ポリ塩化アルミニウムで凝集させ、オゾン処理と活性炭処理を行うことで、ほぼ水にすることができました!

 取材を行った横須賀市水道局では、活性炭処理だけを導入していました。活性炭吸着池には、凝集の工程を終えて元の川の水よりもきれいになった水が流れ込んできます。しかし、まだ目に見えない汚れが沢山あるために、活性炭の層を通して、さらに汚れを吸着させています。
 汚れを吸着した炭は72時間ごとに洗浄されます。その作業を見てみると…炭についた汚れをすすいだ水の色は、茶色っぽく濁っていました。

 活性炭できれいに浄化された水は、さらに塩素で消毒され各家庭に配られるのです。

塩素を入れる理由

 カルキ臭さを生む塩素。なぜ、いれなければならないのでしょうか?山村教授によると、塩素は水道の安全性を守る上で、とても重要な役割を果たしているといいます。
 塩素の重要性を知るために、公園の水を汲みます。公園の水道は、基本的に水道管と直接つながっているため、塩素の濃度が高いそうです。その水を10分沸騰させ、塩素を蒸発させます。
 一方のコップには塩素を飛ばした水が、もう一方のコップには公園の水が入っています。そして、両方の水を一口飲みました。この時、残った水の中に、口の中の菌が入るのですが、どのくらい菌が生き残っているか確かめます。
 飲み残した水を、菌類が繁殖しやすい培地にたらし、温度が一定に保たれる機械に入れて24時間待ちました。その結果、塩素が抜けた水では、菌類が繁殖してしまい、白い斑点が出てきました。しかし、水道水の飲み残しをたらした容器には、斑点なし!菌が繁殖していませんでした!

 いま、日本の浄水場では、次亜塩素酸ナトリウムという薬品が使われています。これは水に溶けると、菌を殺したり、菌の繁殖を抑える効果があります。細菌だけでなく、ウイルスとか病原微生物にも効果があり、オゾンと違って、蛇口まで効果が持続するのが塩素の大きな特徴です。
 実際に私たちが飲む水は、浄水場を出てからすぐに届いてくるものだけでなく、貯水タンクで貯められるなどして、時間がかかることがあります。そのため、適切な量の塩素が水に残っている必要があるのです。実は、私たちは知らないうちに、おいしさと安全が両立した水を飲んでいたのです。