放送内容

第1535回
2020.07.19
東京スカイツリー の科学 場所・建物 自然・電波・鉱物・エネルギー

 高さ634m、世界一高いタワーとしてギネスにも認定されている、東京スカイツリー!関東一円を見渡せる展望施設としても大人気ですが、実はここ、世界有数の研究施設でもあったのです!
 今回の目がテン!は、「驚きがいっぱい!世界が注目する研究拠点、『東京スカイツリー』の科学」です!

ゲリラ豪雨の観測

 案内してくれるのは、防災科学技術研究所の三隅良平先生。
 一般のお客さんが立ち入れる、最高到達地点よりさらに上の、458m。雲に頭を隠すことも多いスカイツリー。ここは、その高さを生かして、雲の中で研究ができる、世界でも珍しい観測拠点なのです。

 今までは飛行機を飛ばさないと、できなかったそうですが、スカイツリーだと1年通して雲の中を観測し続けることができ、非常にたくさんのデータを取ることができるのだそう。
 都市部などに見られる急な局地的大雨、「ゲリラ豪雨」。ひとつの積乱雲の発達がその鍵を握るのですが、積乱雲は短時間で急激に発達するため、いつどこで発生するかの予測が難しく、いまだ謎が多いのです。気象庁によると、観測を始めた76年からの10年と、ここ10年を比べると、1時間に50mm以上降る大雨の回数が、年間平均で1.4倍増えています。

 また、都市化が進んだことで地面に雨が染み込まず、都心での水害が深刻な問題にもなっているのです。
 三隅先生たちは、局地的大雨には空気汚染など人間の活動も影響しているのではと考え、都市部の雲が直接観測できるここでの研究を開始。どんな方法で雲を観測しているのでしょうか?
 雲は、「雲粒」と呼ばれる小さな水滴や氷の結晶からできています。ここにある装置は、幅3~4mmのシート状の光線が発せられていて、東京スカイツリー雲がかかると、雲粒が光線を遮断。このときに、雲粒の大きさや数を計測しているのです。

 こうした観測を続けたことで、都会の雲のある特徴が判明。空気のきれいな太平洋の真ん中でできる雲は、雲粒の数が1㎤あたり約50個。ところが、東京で先生たちが測った結果だと、最大で1㎤あたり1800個。ものすごく細かい雲粒がいっぱい。東京の雲は、そういう性質ということがわかってきているのです。
 雲粒の数に差があるのは、「都会では、エアロゾルの数が非常に多いから」とのこと。エアロゾルとは、花粉や黄砂、そして排ガスに含まれる化学物質など、大気中に浮遊している粒子。そもそも雲は、エアロゾルの粒子に水蒸気がくっつくことで雲粒になり、それが集まって雲へと成長します。空気のきれいな場所ではエアロゾルが少ないため、すぐに水蒸気とくっつき、雲粒に。それがどんどん集まり、大きな固まりとなったのち、重くなって落下。これが雨となって降り注ぎます。
 一方、エアロゾルが多い都会では、空気中で、それぞれが水蒸気を奪い合うため、なかなか雲粒にならず、上昇気流によって、どんどん上へと上がっていきます。それが上空で冷やされて凍ると、やがて、たくさんの水蒸気がついて大きな雲粒になっていき、重くなって一気に落下。雲粒がたまった分だけ、大量の雨となって降り注ぐのです。これが、都市部などに見られる局地的大雨をもたらす雲の特徴。つまり、都会の空気の性質が、その原因のひとつとなっている可能性があるというのです。

ゲリラ豪雨予測装置「雲レーダー」

 そして、東京スカイツリーでの4年間におよぶ研究により、なんと!これまで難しいとされてきた、局地的大雨の予測が正確にできるようになった!?
 その秘密は、茨城県つくば市にある、防災科学技術研究所にありました。この「雲レーダー」の新しいところは、雨が降る前の雲が見えるのです。
 一般的に運用されている雨雲レーダーを見てみます。示されているのは雨雲。雨雲の動きがリアルタイムで表示されます。この雨雲が、このあとどこに移動し、どのくらいの雨量になっていくのかがわかります。

 一方、三隅先生たちが開発した雲レーダーは、あらゆる雲を観測し、その雲が、これから雨を降らせるのか、そのまま消えてしまうのかを検知。これは、雲レーダーから雲に電波を送り、跳ね返ってきた電波の強さで、雲の水分量の増え具合を検知し、雨雲を予測するという仕組み。
 予測画面を見ると、青丸で囲われた、急激な成長は見られていない雲は、雨雲にならずに消えていきました。一方、赤丸で囲われた雲は、急激な成長が見られ、警戒が必要な印。すると、水色の部分が出現。雨が降り始め、次第に黄色やオレンジも現れ、どんどん雨量が増えていくことがわかります。
 これを見れば、雨が降る約15分ほど前から、局地的大雨が降る場所と時間がわかり、備えることができるんです。

 東京スカイツリーで直接、雲粒の成長を観測できるようになって以降、雲レーダーの検知結果が正しいかどうか確認できるようになり、精度がかなり向上したそう。早ければ今年度中に、一般向けに実用化テストがされるとのこと。
 東京スカイツリーでの雲観察により、これまで謎が多かった局地的大雨の実態が見え、予測技術が向上してきたんです!

雷の観測

 雲の観測を行う場所からさらに上へ。案内していただくのは電力中央研究所 主任研究員、三木貫先生。そこは地上497m地点、一番上の鉄塔の付け根部分。ここでは、スカイツリーのタワーに落ちる雷の電流を測っています。
 実は雷は、ほとんど実態がつかめていない謎多きもの。雷が起こるメカニズムは、上空に冷たい空気があるとき、地面が太陽で温められるなどして上昇気流が発生。すると水蒸気が上昇していき、雷を起こす“大きな積乱雲”ができます。この積乱雲が、上空の冷たい空気で冷やされると氷の粒ができ、その粒同士が強い上昇気流にもまれ、擦れ合うことで電気が発生。すると、重い大きな氷の粒は、マイナスの電気を帯びて下の方にたまります。雲の中にたまった電気は、これ以上ためられない!というところで、下にたまったマイナスの電気が、プラスの電気をもつ地面に向かって電気を逃がします。これが落雷。
 しかし雷は、毎回どこに落ちるかわからないため、研究が進まず、およそ50年も前にスイスの山で観測したデータが、いまだ世界基準となっているのです。都市部で建築物の高層化やIT化が進む今、一瞬にして様々な電気機器に影響を及ぼす落雷は、一刻も早い適切な対策が求められています。
 そんな中、世界の注目を浴びているのが、東京スカイツリー。
 観測開始以来、8年間で70回以上もの落雷があった、絶好の観測所なのです。

 観測装置は、鉄塔の付け根部分にあります。東京スカイツリーのてっぺんに雷が落ちると、白い柱に流れる電流を、「ロゴスキーコイル」という、電流の測定器で計測。そのデータが光ファイバーを伝い、内部の測定器へと送られたあと、電流の大きさや、流れる時間などの情報を調べます。
 1回の落雷では、波形で示されますが、よく見ると何本もの線が。

 雷は、どーんと落ちたとき、何度かピカピカと光りますよね?実は、1回の落雷で、同じところに何度も電流が流れており、その回数がグラフに反映されていたのです。
 雷は、電気が通りやすいところを進んでいきます。ジグザグになるのは、電気を通しにくい大気中の邪魔な分子を避け、通りやすいところを探して進むから。
 最初の落雷で軌道ができたところは電気が通りやすく、グラフを拡大して見ると、最初の雷よりも、2度目の方がグラフが鋭角で、勢いよく流れていることが示されています。

 このように、全ての落雷情報は細かく分析されているのです。
 さらに、東京スカイツリーへの落雷は、周辺のカメラから撮影もされていました。一方向から捉えた落雷は、まっすぐな軌道に見えますが、約90°右から見ると、かなり曲がっていることがわかります。

 落ち方で、どのような違いが出るのか、今まさに分析中ですが、3次元の映像と電流波形がセットで撮れるのは、落雷の確率が高い東京スカイツリーだからこそできる、極めて貴重な観測だといいます。

落雷位置を示す装置

 さらに、ここでの研究が、落雷の被害縮小に大きな進歩をもたらしました。これまでは、落雷で停電などの被害が起きたとき、どこに落ちたかの特定に、かなりの誤差が発生。数百メートルから数キロほどの大まかな範囲でしか場所を特定できず、ひとつひとつ探していっても見つからず、実は被害を受けたのは、山を1つ越えた場所…なんてことも。
 それを解決しつつあるものが、三木先生の研究所に設置されている、電解受信アンテナ。こちらのアンテナは関東周辺3か所にあり、落雷時に発生する電磁波をキャッチし、落雷位置を割り出すシステム。東京スカイツリーへの、日時と場所が明確な落雷を繰り返し観測することで、電磁波の観測データから落雷地点を割り出したときに生じる誤差を把握できるようになりました。その誤差を縮めていくことで、システムの精度が上がり、ほかの場所への落雷もより正確な落雷位置を示せるようになったといいます。
 例えば、今年5月6日、関東地方に多くの落雷があった日。夕方6時からの2時間で落雷があった場所は、なんと180か所以上!その場所を、わずか50mほどの誤差で示すことができたのです。
 現在はテスト段階ですが、落雷で被害を受けた場所をいち早く特定し、素早い復旧ができる日も近いといいます。

 ちなみに、スカイツリーに雷が落ちても、震動などもないため、心配はまったくないそうです。
 250m付近では、大気を採取して温室効果ガスについて調べる研究も行われている、東京スカイツリー。今後さらに研究が進めば、私たちの生活が、より快適に安全になっていきますね。