放送内容

第1537回
2020.08.02
個性的な図鑑 の科学 物・その他 水中の動物 植物

 最近ブームになっているのが、図鑑!家にいながら楽しめ、勉強にも役立つと、子供だけでなく大人にも大人気!中でも今、続々と出版され、注目を集めているのは、これまでにないテーマの個性的な図鑑なのです!
 その中には、いったい誰が何のために、こんな図鑑を作ったの?と不思議に思うものも!そこで目がテンが、その謎に迫ったところ、図鑑の世界のディープな魅力が見えてきました。
 今回の目がテン!は、「こんな世界があったのか?!個性的な図鑑の科学」です。

断面に込められた思いや工夫

 『だんめん図鑑』の制作者、舟久保正榮さんを訪ねました。どうして、このような図鑑を作ったのでしょうか?
 「断面には、作った方の思いや工夫がびっしり詰まっていて、それがわかって楽しい」と舟久保さん。例えば、どんなことがわかるのか?図鑑を作った時に真っ二つにしたものを見せてもらうことに。
 まずは、プロのボウリング球の断面。

 断面を見て気づくのは、中心にある不思議な形をした色の濃い部分。これは「コア」と呼ばれる重りだそうで、この形をデコボコにすることで、ボールの重心が中心からずれて、投げた時に曲がりやすくなるのだとか。コアには色々な形があり、それぞれ曲がり具合も違うので、プロは、コアの形と曲がり具合でボールを選ぶのだそうです。
 真っ二つにしたことで、カーブボールでストライクをとれる秘密を見ることができました。

 次に、炊飯器の断面。

 うち鍋の下に加熱板があり、これで鍋を加熱していることがわかります。真っ二つにして見えた工夫が、スチームキャップの部分。蒸気を外に出す穴だけではなく、「おねば」と呼ばれる、ご飯のおいしさにとって重要なでんぷん類を逃さない設計になっているのです。

 切断に使うのは、「帯鋸」と呼ばれるカットマシン。

 中でもキモとなるのが、1本のベルトになっている刃。これが一定方向で高速で回っています。
 一般的な電動糸ノコは、上下に刃を動かすため、振動が増えます。一方、帯鋸は、刃を一定方向に高速で回転させる事で振動が抑えられ、切り口がスパッと鮮やかに切断できるそうなのです。
 刃先にも秘密が。刃にまぶしてあるのは、ダイヤモンドの粉。 これで、普段は切断が難しい硬い素材も切ることができます。
 普通の電動のこぎりでは割れてしまう、薄いガラスの白熱電球も、帯鋸ならヒビ一つ入らず真っ二つ。お見事!

 舟久保さんが、今まで切断した中で特に魅力的だったものは、自然物。自然物になると、人間を超えた偉大な存在を感じてしまうそうなんです。
 そこで、キリガイダマシという巻貝を切ってもらいました。

 螺旋状に何層にも巻かれた形が特徴のキリガイダマシ。巻貝は成長にともない、殻の口の周りに膜を形成し、螺旋を描くように徐々に大きな殻を作っていきます。そのため、切断すると、大小異なる同じような口の形が、ズラリと並ぶんです。
 舟久保さんが、真っ二つにして一番感動したというのが、オウムガイの殻。4億年前から、ほとんど姿を変えていない「生きた化石」で、タコやイカの仲間なんです。
 こちらが、オウムガイの殻の断面!

 綺麗な曲線が渦巻き状に並んでいます。まさに自然が生み出す芸術的な美しさ。
 生体が入る場所以外に、丸い壁で仕切られている部屋がたくさんあります。オウムガイを研究する横浜国立大学の和仁准教授によると、これは、オウムガイが海の中を泳ぐときに必要なものだというのです。オウムガイは成長して体が大きくなるたび、殻の液体を少し抜いて、この空洞の部屋を作っていきます。体が重くなっても、空洞の部屋を次々と増やすことで浮力を調整していたのです。

断面には、新たな発見と、私たちの想像を超える驚異が隠されていたのです。

雑草の花を観察

 続いて、待ち合わせたのは都内の公園。『美しき小さな雑草の花図鑑』の著者、多田多恵子さん。
 多田さんが観察していたのは、1ミリという小ささの白くてかわいい“ねこじゃらしの花”。

 正式名称は「エノコログサ」で、「エノコロ」とは、犬のことだそう。
 雑草とは、人間が手を加えた土地に、自然に生えてくる野生の植物を指す総称。多田さんの図鑑では、そんな雑草の花に注目。身近だけど、小さすぎて普段は気づかない、数ミリから数センチの小さな雑草の花々を紹介。
 プロの写真家が撮影した花を、ページいっぱいに拡大することで、雑草の花の美しさをたっぷり楽しめるのです。
 待ち合わせた公園内でも、雑草は、たくましく生きているといいます。さっそく、キレイな雑草の花を探してみることに。
 開始早々、植木の側で発見したのは、3ミリという小ささの、キュウリグサ。

 花が咲く目的は、虫に花粉を運ばせ繁殖するため。そのため、虫の気持ちになって探すことが、雑草の花を見つけるコツといいます。

雑草の花々、驚きの戦略

 多田さんから、小さな花を観察するおすすめの方法を教えていただきました。

小さな花を観察する方法①
 タブレットやスマートフォンを使い拡大する

小さな花を観察する方法②
 マクロレンズを取り付けさらに拡大する

 こちら、裕太くんが初挑戦したツユクサの写真。3段に並んでいるものはツユクサのおしべで、こちらがめしべ。

 この位置関係に、ツユクサの驚きの繁殖戦略があるというのです。
 多田さんによると、おしべには3種類あるそう。一番上のきれいに目立つところは、花粉を出さない虫を誘うための見せかけのおしべ。その下が、少し花粉を出すおしべ。そして、一番下に二本長く伸びるおしべが、花粉をたっぷり出すおしべ。
 花粉を食料とする虫に食べられすぎてしまっては困るので、そっとおなかのあたりに花粉をつけるという戦略なのです。

 花粉を運んだ虫が、別のツユクサのめしべに花粉をつけることで、自分とは違った性質の種子を作ることができ、生き残りやすくしているのです。
 しかも、ツユクサは虫が来なかった時のプランも用意していました。
 1日しか咲かないツユクサは、虫によって受粉出来なかった時に備え、花を閉じる時に自らの花粉で受粉するシステムまで持っているのです。

 多田さんは、植物繁殖の研究者。虫との相互関係を調べています。特に雑草には、子供の頃から惹かれてきて、友達みたいな感覚なのだそうです。

 次に見つけたのは、茎に対して、クルクルと螺旋状に咲く花の様子から名がついた「ネジバナ」。花は7ミリと小さいですが、ねじれた花穂の先から花が横向きに咲いています。

 多田さんによれば、この花にも驚きの繁殖戦略があると言います。ネジバナの花の中には、蜜のほかに花粉の塊も隠してあります。虫が蜜を取りにやってきたら、花粉の塊を粘着テープのようなもので虫にくっつけて、一度に大量の花粉を運ばせる戦略をもっているのです!

 健気に咲いている小さな雑草の花に、強かな戦略が込められていることが、よくわかりました。