放送内容

第1625回
2022.05.15
ネコ の科学 地上の動物

 ここ数年、新たにネコを飼う人が増えています。2014年には、イヌの飼育頭数を追い抜きネコが逆転。今やネコの飼育頭数が上回っています。そんな身近なネコですが、実は謎が多い生き物なんです。
 ネコが人と暮らし始めたのには意外な理由が!まるで液体?ネコはどうしてこんなにも柔らかいの?ネコの特技!空中回転着地!そこに驚きの科学が隠されていた!
 今回の目がテンは、身近だけど不思議がいっぱいネコの科学です!

ネコの習性の不思議

 甘えたいときには飼い主の都合も考えず甘えてくるのに、いざ、飼い主がかわいがろうとするとツレない態度。このツンデレはいったいどういうことなんでしょうか?
 麻布大学獣医学研究科、動物心理を研究する高木さんに聞きました。すると、イヌとネコでは、人との関係性が違うと言います。
 イヌの場合、その祖先はオオカミ。およそ1万5000年前には家畜として人に飼われ始めたとされ、長い年月をかけ、狩猟や牧畜などの目的に応じて、人にとって都合の良い特徴を持ったイヌを選び出し、さまざまな品種を作りながら飼い慣らしてきました。
 一方、ネコと人との関係が始まったのは、およそ1万年前。貯蔵庫の穀物を食い荒らすネズミを捕ってくれるネコは、人にとっても好都合。お互いに得をすることから、徐々に人と共に生活をするようになったと考えられています。

 ネコは人のそばで暮らしながらも、自然に繁殖してきました。他の家畜とは違い、自ら人に近づき共に暮らすことを選んだ、珍しい「野生動物」と言えるんです。
 そして、ネコの祖先はリビアヤマネコ。見た目も特徴も、現代のネコと比べて大きな差は見られません。また研究によると、DNAで見てもほとんど違いがないそうなんです。ヤマネコは、多くのネコ科の動物と同じく、縄張りを作って単独で行動します。素っ気ない態度は単独で行動するネコの野性味によるものなんです。
 しかし一方で、飼い主を信用しきったこの姿はまさに「ツンデレ」の「デレ」そのもの。この「デレ」は人とネコの関係性に秘密があると言うんです。
 ネコを飼っていると、ネコに鳴きかけられることは日常茶飯事。でも実は、外で暮らすネコは、繁殖と喧嘩の時以外、ミャオとなくことはほとんどありません。そんな外のネコでも唯一、ミャオと鳴く時期が、子ネコの時。母ネコに何かを 要求する時、鳴くんです。
 家で飼われているネコは、成長した後も人の気を引くためにこのミャオという鳴き声を使っています。ネコは、飼い主を、世話をしてくれる母親のような存在と捉えており、ミャオという声を使えば、自分の望みをかなえてもらえると知っているんです。
 祖先の性質を残しながらも、人との共生により社会性を獲得してきたからこそ、素っ気なかったり甘えたり様々な個性を持ったネコがいるんです。

ネコの体の不思議

 今やネコ界のレジェンド、SNSでも日本トップクラスの人気を誇る「まる」。まるの得意技が、狭いところを見つけると、とにかくダイブ!さらに、小さな金魚鉢に全身がぴったり入ってしまいます。

 ネコの多くが、狭いところや隠れられるところにいると安心するそうです。それにしても、まるで液体!一体どうしてこんなことができるのでしょうか?
 ヤマザキ動物看護大学の荒川真希助教に聞いてみました。
 ネコの骨格標本を見ると、特徴的なのは、細かい骨が連なった弓のようにしなやかな背骨。実はネコ、背骨の骨と骨の間が広いので、大きく背中を反ることも、反対に頭とお腹がくっつくほどに折り曲げることもできるんです。

 ここで、ネコはどれくらい狭い穴を通れるのか検証!まるの飼い主さんの映像をお借りしました。まずは直径25cm。バスケットボールが入るサイズの穴。これは楽勝。次は、CDよりひと回り小さい11cmですがなんとか成功!そして10cm…は失敗。流石に10cmは難しかったようです。

 そもそもネコは、人間にはできない狭い隙間を通り抜ける能力を持っています。なぜこんなことができるのか?
 人間とネコの大きな違いが肩の構造。ネコの肩甲骨は人間とは違い、体の側面に沿ったつき方をしています。

 これが狭いところを通ることができる理由の一つ。
 さらに、四足歩行の哺乳類は、速く走るために肩の可動域を広げ歩幅を大きくする必要があり、鎖骨を小さくしたり、無くしてきました。一方、人類は二本足で立つことで、鎖骨が、腕や手を支える骨として、大きく発達したんです。
 そしてネコの場合、鎖骨が人と違って胸や肩の骨とつながっておらず、遊離している状態。そのため、肩幅を自在に狭くすることができ、背骨をうねらせながら狭い隙間にも入り込めるのです。ネコの体は骨格的に、しなやかな柔軟性を備えていたんです。

ネコの空中回転着地

 19世紀にフランスの学者が撮影した、ネコが落下する様子の連続写真。この写真には、逆さまの状態から、見事に足で着地している様子が捉えられています。落下の瞬間はネコが地面に対し背中を向けている状態。なぜこの状態から空中で反転し、足から降りられるのか?100年近い間、科学者達の間で論争が続いてきました。この問題をロボット工学の視点から研究している信州大学の河村隆教授に詳しく伺いました。用意したのは、人が乗ることができるサイズの回転台。回転台の上に立つことで、地面と足が接している部分の回転摩擦を最小限に抑えることができます。これで、ネコが空中にいるときと同じく周囲から外の力を受けない状態を再現しました。
 それでは、回転台に乗りネコのように反転してみます。しかし、体を反転させようと上半身を捻ると下半身は逆向きに回ってしまっています。

 その結果、体全体の向きは変わらず、元に戻ってしまうんです。これは回転の作用反作用の法則。先ほどの場合は、上半身を回転させようとする力の反作用で、反対向きの力が下半身にかかっていたんです。
 ではどうしたら回転することができるのでしょうか?ネコは、落下直後に体をネコ背に曲げた姿勢になっています。ところが落ち始めると体を横にひねり、その次にはお腹を伸ばして猫背ではなくなっています。この腰をぐるっと1周回すということを意識して動かすといいとのことですが…。言われた通り、猫背の姿勢から腰を大きく動かしてみると、見事、体全体を反転させることができました!
 最初のねじる動きは、体が1本の直線のようになっていて、これを動かそうとすると上半身と下半身をねじることしかできません。それに対して猫背になって体を曲げると、腰を回すような動きができるようになり、この力を出そうと筋肉が頑張ります。そうすると出した力は、全体を反対向きに回す力になっているんです。

 先生の論文では、複雑な図と数式を駆使して説明していますが、とにかく言えるのはネコの真似をしたらできちゃったということ!
 さらに、ネコは耳の奥にあるバランスセンサーである三半規管が、とても敏感で高性能であるため、不安定な体勢を反射によってわずか0.5秒程で立て直します。これは、人にはできない芸当で、逆さまに落ちても両足で着地することができるんです。