東京都現代美術館
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フレデリック・バック

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メッセージ

▶フレデリック・バックさん
▶スタジオジブリ・鈴木敏夫プロデューサー
▶スタジオジブリ・高畑勲
▶monky majik

フレデリック・バック

 まず最初に、『フレデリック・バック展』開催にこぎつけてくださった東京都現代美術館、日本テレビ、そしてスタジオジブリに対し、心から感謝いたします。そしてその実現のために奮闘しておられる皆さまに、心からの敬意と感謝の意を表したいと思います。
 それは単に、私が何年も前からバックさんの展覧会の実現を強く願っていた者のひとりだからというだけではありません。未曾有の東日本大震災と大津波、そして恐るべき原発事故災害に見舞われた今こそ、この日本で、バックさんの作品をあらためて見直すべき時ではないかと思うからです。
 バックさんはつねに、自然と人間の営みのあり方を見つめ、それがどうあるべきかについて考え、文明の行き過ぎには警鐘を鳴らし、根本のところからメッセージを発し続けてこられました。私たちは、そして次代を担う子どもたちは、そこからじつに多くを学ぶことが出来るはずです。
 とくに、荒廃した山地に黙々と木を植え続け、大地をよみがえらせた一人の男を描いた『木を植えた男』は、これから先、幾多の困難を乗り越えながら、力を合わせて営々と復興に取り組まなければならない私たちを強く励まし、希望を与えてくれるにちがいありません。そして、セントローレンス河の壮大な歴史を追った『大いなる河の流れ』は、全世界にそのままつながっている「水と大気」を決して汚してはならないのだという決意と反省を、厳しく私たちに促すことでしょう。
 その意味で、これからの日本をどう作り上げていくかについて再検討を迫られている現在、『フレデリック・バック展』の開催は、まさに時宜に適っていると言わねばなりません。

 けれどもバックさんの作品は、メッセージ性だけで語るべきではないことはもちろんです。三十年近く前、私はまず『クラック!』という作品に出会い、その人間的な楽しさ美しさにすっかり魅了されました。揺り椅子の一生を軸に、田園での人々の暮らしを生き生きと描いた傑作です。
 バック作品は、内容と表現が分かちがたく結びついています。バックさんの温かい絵の魅力と、映画としての面白さこそが、バックさんの語りかけるものに、大きな説得力を与えているのです。その絵は、映画の中で次々と変化し、一枚一枚、私たちを魅惑しながら一瞬のうちに過ぎ去ってしまいます。バック作品の魅力の秘密はそこにこそあるわけですが、展覧会では、その一枚一枚を静止させて展示し、その秘密に迫っていただくことができます。そしてそれらの絵の活力の源泉がじつは、若いときから営々と描き続けられたご自身の膨大なスケッチや習作にあったこともまた、この展覧会で浮かび上がることでしょう。
 まったく関係がなさそうに思えるかもしれませんが、じつは、私はバックさんの作品から大きな影響を受け、『ホーホケキョとなりの山田くん』を作りました。そして今また、バックさんのスケッチ的表現手法をある種の模範としつつ、有能な作画家たちとともに、新作映画で、また別の新しい表現に取り組んでいます。バック作品は、今なお、私たち後輩にとって、アニメーション映画の新たな表現を生み出すための汲めども尽きぬ源泉であり続けているのです。

 フレデリック・バックさんを心から敬愛する私にとって、バックさんの芸術を楽しみつつ、そのメッセージをくみ取り、それを生み出したバックさんの素晴らしい人となりに触れていただけることは、まさに無上の喜びです。あとは、この展覧会にできるだけ多くの方々が足を運んでくださることを祈るばかりですが、バックさんのことは、まだまだ一般に広く知られているとは言えません。その点、皆さまのご協力を切にお願い申し上げる次第でございます。
 最後になりましたが、この展覧会実現を喜んでくださり、全面的にご協力くださったフレデリック・バックさんと娘さんのシュゼルさんに心から感謝いたします。

高畑勲
2011年4月 東京展 記者発表会でのコメント