ここで平治さんの手によって鉄に水がつけられ、表面を覆っていた酸化鉄が取り払われた。
すると、今までゴツゴツといびつだった表面があっという間につるつるになり、俄然、鉄っぽさが増してきた。
さらにこの鉄板をナタとクワの大きさに切り分け、その形もようやく道具らしくなってきた。
そして、やっと次の作業「鍛接」へ。ここまで鍛錬した軟鉄とは違い、固いがもろい鋼鉄でできているのが鋼。

日本の刃物は、この2つを合わせて作られるものが一般的で、柔軟性と丈夫さを併せ持っている。
鋼はまず、鋼を原料とした廃鉄を溶かさなければならないが、それにはこれまででもっとも高温の1500度の炉が必要となる。
そこで、熱く熱した炭の上に廃鉄をのせ、溶けて下に溜まった鋼を取り出す専用の炉を作る。
しかしこのときの温度がとても重要だと平治さんは言う。なぜなら、この温度が高すぎても低すぎても鋼はもろくなってしまうからだった。

少しずつ鋼でできた廃鉄を炭に投じ、温度に気を使いながらゆっくり溶かしゆく。
そして6時間後。専用の炉を壊し、底から鋼の塊を取り出す。まだ飴のようにグニャグニャの鋼を水につけ、軟鉄と同じように鍛錬の作業で薄く広く板状にしてゆく。
「キィン!キィン!」
村に響き渡る目の覚めるような音がひと段落ついたころ、ようやく鍛接の作業へと入る。
鍛接では軟鉄と鋼をくっつけなければならないが、これにはそれ専用の接着剤を使うという。