第546回日本テレビ放送番組審議会は、二部構成で行いました。今回も感染防止のため、リモート形式で行っています。
第一部は3月12日の情報番組『スッキリ』内で放送された「不適切で差別的な表現」について経緯を説明し、ご意見を伺いました。
これは、事前に収録された内容にアイヌ民族の方々を傷つける「不適切で差別的な表現」があったにもかかわらず、収録現場でも編集チェックでも疑問の声が上がらず、そのまま放送したというものです。
放送後、当日夕方の『news every.』と、日本テレビのホームページ、週明け月曜日の『スッキリ』冒頭でお詫びをしました。
また、民放連(日本民間放送連盟)会長の大久保好男が民放連の記者会見で、日本テレビ代表取締役会長執行役員として陳謝、日本テレビの定例記者会見で代表取締役社長執行役員・小杉善信が陳謝し、関係諸団体にもお詫びとご説明をしていることをお伝えしました。 各委員のご意見は以下の通りです。

  • 事前収録されていたものが、問題を指摘されずに放送されたというのは、アイヌの問題がいかに理解されていないかというあらわれだと思う。
    日本に色々な人権問題、差別問題が存在する中でも、アイヌの問題はメディアで紹介される機会も少なく、特に北海道以外の人々には実態を理解しづらい問題。何かややこしい問題として、触れずに水面下に潜らせてしまうのではなく、これを一つの契機として、少数派の人や偏見を持って見られがちな人々への理解が深まるような番組作りをしていただきたい。
  • 少数民族、日本で差別されている人たちの民族名を駄洒落にするセンスがまず信じられない。番組制作以前に、洒落やユーモアで使えることと、そうでないことの区別がないのではないか。そのことに誰も気が付かなかったことに驚いた。
  • アイヌ問題は、凄く根が深い歴史上の問題。内地の人に占領され、文化も全部奪われたという典型的な民族問題だが、意外と知られていないので、こういうことが出てしまう。
  • どうしても必要なのは、他者へのリスペクト。駄洒落にするというのはリスペクトが無いということ。リスペクトするという基本姿勢があれば、ああいう言葉は出てこない。人としての根本的な考え方の問題ではないかという気がした。
  • 最初にこの問題を聞いた時には、生放送中にぱっと言ってしまったのかと思ったが、しっかりとVTRで作りこんでいたのを知って驚いた。チェック体制などがどうなっていたかは説明されて分かったが、肌感覚みたいなものがちょっと違っていたんだろうなと感じた。対応は早かったと思うし、これから社内教育も徹底して欲しい。
  • アイヌ問題は高校の授業でしっかり受けたので、あの言葉がNGであることが自分は肌感覚として分かるが、若い人や色んな世代に伝わっているわけではないということが、今回の件で良く分かった。それがチェックできなかったことと、わりと小さなコーナーであることが、そういうことを生んでしまったのではないかと凄く残念に思う。自分も含めて、人を幸せにするためにテレビに携わりたいと改めて思った。
  • アイヌに限らず色々な人権問題を研修することは大切で、是非やっていただきたいが、それと同時に、思ったことはきちんと言えるようなチーム体制づくりにも取り組んでもらえると良いと思う。宇宙船の中でも事故がある時、チェック機能をすり抜けてしまうことがよくあり、その時には“チームの組織文化”までさかのぼるので、是非取り組んでいただきたい。
  • 日本民間放送連盟が作っている放送基準、民放の憲法みたいなものの第一章に「人権」が挙げられていて、その5番目に「民族、職業、性別などで差別してはいけない」ということが書いてある。
    さらに解説には「なにげない表現が当事者にとっては重大な侮辱、あるいは差別として受け取られることが少なくない」「当事者の人権を尊重し、仮にも侮辱あるいは差別されたという念を抱かせることの無いようにしなければならない」と書いてある。
    BPOの放送倫理検証委員会では、去年1月に民族の表現をめぐる差別の問題で意見書を出していて、かなり共通する部分があるので、是非この意見書を我が事としてじっくり読んでもらいたい。そして、今回の問題の背景にはどういうことがあったのか、皆の意識の中にどういう意識があったのか、目に見えないところまで含めて、自らの力で検証して頂きたい。
  • 今の世の中、テレビの世界が特にそうだが、全て笑いでオチを付ける。人を“いじる”ことが笑いに繋がるということも絡んでいると思う。
    ちょっといじっても良いという感覚だったのかもしれないが、やはり、我がこととして考える力が欠けていたのではないかという感じがする。物を作る時には「自分だったらどう思うか、これを言われたらどうだろうか」ということを一つ一つ検証しながら作って行かねばならないし、皆で勉強していって欲しいと思う。
  • 年がかなり上の人たちはあまり馴染みがないかもしれないが、人種差別や性差別について、今の若い人たちは研修やセミナーを受けてとても勉強していて、注意深く生きている。
    肝は「自分自身が人を差別する人間であることに気が付くこと」だと思う。「自分はそんなことはしない、そんなバカな人間ではない」と思いこむ人は自分も含めて多いが、自分自身にもそういう意識があると気付くと、この件が実は地続きで自分も何かの拍子にやりかねないと思うことが大事。あらゆる差別を無くしていきたいという姿勢を打ち出して欲しい。
  • 現場で2本収録してどちらを選ぶかという場面で、コンプライアンスの意見を聞かずに選んでしまった過程を精査し、受け手がどう感じるかということを考える教育をやっていただきたい。また“チームの組織文化”という話があったが、過去に良いドキュメンタリー番組があったのに、全社の共有財産になっていない。報道やドキュメンタリーの中での、人権をきっちり捉える姿勢が全社的なものになっていないと思うので、こういうことが起きないように予防していく組織を作る必要があると思う。

この御意見を受けて、日本テレビ側は次のように答えました。

「アイヌ民族のみならず、人権問題に関して改めて学び直し、他者へのリスペクトを込めて伝えていく努力を重ねたい。意図の有る無しにかかわらず、受け手がどう感じるかという想像力を生かし、番組のチェック体制を見直すこと。アイヌ民族の歴史や文化を伝える番組を放送するなど、日本テレビ全体で正面から向き合っていきたい。
 公共性、多様性、基本的人権を何よりも重視しなければならないマスメディアの大きな責任を感じ、二度とこういうことが起きないように、しっかり徹底していこうと思います。」