放送内容

第1513回
2020.02.16
入浴剤 の科学 物・その他

 疲れたカラダは湯船でポカポカと暖めたいものです。そんなバスタイムを充実させてくれるのが「入浴剤」。
 “泡のブクブク”を体に当てても意味はない!?そもそも入浴剤はどうやって作られる?
 都丸さやかさんが入浴剤の研究所へ行き、“開発の裏側”を調査!
 今回の目がテンは…謎多き入浴剤を科学します!

入浴剤の研究所を調査

 都丸さんが訪れたのは入浴剤メーカーの研究所。案内してくれるのは製品開発部の中西さん。今から100年以上前の明治26年。漢方薬のメーカーが「中将湯」という婦人用漢方薬を発売。その中将湯をお風呂に入れると温まり、あせもが治ることをその当時の社員が見出しました。そして明治30年。婦人薬に用いる生薬を使って“日本初の入浴剤”(入浴のために薬品を調合したもの)が誕生。入浴剤のルーツは生薬にあったんです。

 ではそんな入浴剤、今はどうやって作られているのでしょうか?
 案内されたのは理科室のような部屋。入浴剤のパッケージでよく見る“主成分”を調合しているんです。ここを案内してくれるのは製品開発部の杉浦さん。入浴剤の開発に携わってこの道29年。数々のヒット商品を世に送り出した入浴剤開発のスペシャリスト。
 今回、特に人気の“泡の出る入浴剤”の作り方を教えてもらいました。
 その作り方は、まずアルカリ性の重曹を入れ、さらに、酸性のリンゴ酸を同じ量加えます。それらをグリセリンと一緒に混ぜ合わせお団子状にすると完成。完成したモノを、お風呂と同じ温度のお湯に入れてみると、アルカリ性の重曹と酸性のリンゴ酸が水に溶け化学反応を起こし、二酸化炭素が発生したんです。

 ここでは、色素を使って、入浴剤に色をつけるという作業も行います。
 入浴剤の成分を調合したら、続いての工程へ。やってきたのは「調香室」。部屋にはいい匂いが漂います。ここで、入浴剤の香りを作ります。実は入浴剤の香りは、様々な香料を混ぜ合わせることで、私たちがイメージとして持っている香りを再現したもの。その香料の組み合わせを作るのが調香師の仕事。ここで香りの奥深さを教えていただきます。
 100種類の原料から作られるジャスミンの香り。その1つを嗅がせてもらうと、都丸さんは“押入れのニオイ”と表現。都丸さんが嗅いだのはインドールという香料で単体では不快なニオイがします。リアルな香りを作り出すためには、嫌な匂いを混ぜることも重要なんだそう。
 成分と香りを決めたら、あとは完成。と思いきやまだ重要な行程があるよう。なんと杉浦さんが浴槽に入っています。ここでは、複数の浴槽を並べ商品化前の入浴剤を入れたお湯の感触や香り、色の差などを実際に入浴しながらテストしているんです。研究者たちの熱意と飽くなき探究心が、入浴剤の進化を支えていたんです。

入浴剤の効果って本当にあるの?

 入浴剤のメリットとは何なのか?研究所の設備を借りて実験です。入浴剤を入れていないさら湯と、入浴剤ありのお湯。それぞれに入ったあと、体にどのような差が表れるのでしょうか?
 まず、40℃のさら湯に。10分後、お風呂から出たら、乾いた水着に着替えて体温を測定。今回は、体の中心がどれだけ温かいのかを調べるため、ベロの下に体温計をいれて“深部体温”を測ります。
 入浴前をゼロとして、その変化をみてみると、入浴直後は入浴前より深部体温が高くなりましたが10分後以降、深部体温は入浴前よりも下がってしまいました。これは、“湯冷めした状態”です。
 測定を終えたら、安静にして体調をリセットします。
 今度は泡が出るタイプの入浴剤を入れ、先ほどと同じく40℃のお湯に。10分後、お風呂から出て深部体温を計ると、入浴直後の体温の上がり方はさら湯よりも高く、さらに、30分経った後でも深部体温が入浴前より高い状態を維持できたのです。
 つまり、入浴剤を入れたお湯は“湯冷めをしにくい”という結果に!

 なぜこのような結果になったのでしょうか?入浴の研究を行う早坂教授に聞いてみると、重曹と酸を合わせて水に入れることで発生した二酸化炭素が温まる秘密だといいます。発生した泡は二酸化炭素ですが、それ以外にもお湯に溶け込んだ二酸化炭素があるんです。二酸化炭素が溶け込んだお湯につかると、さら湯に比べて血液の流れが1.3倍よくなり、このことによって温められた血液が全身の奥深くまで回っていきます。そのことによって、まずは深部体温が十分に上がり、そして温まりが長く続くことになるんだそう。
 では、なぜ二酸化炭素が血流をよくしたのでしょうか?
 水に溶け込んだ二酸化炭素は水を媒介として皮膚から吸収されていきます。人間の体にとって二酸化炭素はいらないものなので、その取り込まれた二酸化炭素を息として早く体の外に出そう働きます。結果として、血管が広がり、血流がよくなるんです。

入浴剤の正しい使い方

 入浴剤の使い方を聞いてみると、入浴剤が溶ける時に出る泡を体に当てているという人が。ところが、早坂教授は入浴剤から出る泡を直接身体に当ててもあまり意味はないといいます。
 そこで、実験です。同じ温度のお湯を2つ用意。1つは泡が出るタイプの入浴剤をあらかじめ入れておきます。そして、入浴剤が溶け切ったタイミングで右手と左手をそれぞれお湯につけます。もう片方のお湯には手を入れるのと同時に入浴剤を入れます。この時、泡に手を当てながら浸かります。
 入浴剤が溶けきったお湯で温まる場合と、泡を当てながら温まる場合で、どんな違いが表れるのでしょうか?

 5分後。お湯から手を出し、サーモグラフィで肌の表面温度をみてみると、お湯から出した直後は、温まり方に大きな差はありませんが、その後の冷え方を見てみると泡を当てていた方の腕の温度が徐々に下がっていきました。お湯から手をだして5分後。あらかじめ入浴剤を溶かした方の手は指先まで温かさが残っているのに対し泡を当てていた方は冷たくなっています。これは、二酸化炭素が溶け込んでないものに手を入れても、十分に二酸化炭素が皮膚から吸収されないということ。つまり、泡が出るタイプの入浴剤は、しっかり溶かし込んでから入浴するのがいいんです。

温泉風入浴剤はどうやって作ってる?

 自宅にいながら、温泉に行った気分が味わえる入浴剤。どのように作っているのでしょうか?今回、その方法を教えてもらえるということで…向かったのは栃木県那須塩原市。
 温泉風入浴剤・開発チームは、研究所でお会いした杉浦さんと調香師の佐々木さん。そして商品の企画開発を行う藤野さんです。
 しかし、露天風呂へ向かわずに、なぜか旅館の中へ。まずは温泉の成分が書かれた表を記録。この表を見るとどんな温泉か大体想像がつくんだそう。このメーカーでは、商品化する温泉に含まれる主要成分上位3つを実際に温泉と同じ割合でいれるそう。

 記録を終えてやっと温泉。都丸さん、調査を忘れのんびり温泉を堪能していますが…。入浴剤の成分を決める杉浦さんはお湯の感触をチェックし、香りを作る調香師の佐々木さんは、お湯のニオイを確かめます。商品企画の藤野さんは周りの風景を撮り、パッケージデザインのヒントに。商品化には泉質だけでなく、周囲の環境など、現地の雰囲気を表現することも重要なんです。

 そして、忘れないうちに調査結果を評価シートに記入。
 杉浦さんのメモには、湯触りなどの記録に加え、どのような成分でお湯を表現するべきかなど、開発の際の構想が書かれています。
 一通りチェックを終えたら、休む間も無く、泉質の異なる温泉へ。ここでも杉浦さんは温泉の分析表をチェック。
 2箇所目は、濁り湯の露天風呂。そして、もちろんここでも泉質や匂いをチェックしたら、すかさずメモ。そして、またも泉質が異なる3か所目の温泉へ。こちらは川沿いにある公共の温泉。粉雪が舞う中、ゆっくりとした時の流れを楽しみます。皮脂を溶かす重曹泉の性質もチェック。この日は3カ所のお湯を調査しましたが、多い時は、1日で10カ所以上回ることもあるそうです。
 そして後日、今回まわった3カ所のうち1つの温泉をイメージした入浴剤を作っていただきました。できあがった試作品に都丸さんと研究者が入浴。
 自然豊かな那須塩原をイメージし、色はグリーン。香りはフレッシュさを感じる「森の香り」になりました。

 さらに杉浦さん、実は皮脂が溶けてキュッとなる重曹泉の泉質を表現するため重曹を加えた入浴剤を作っていたんです。都丸さんも見事に実際の温泉とそれをイメージした入浴剤の共通点を捉えることができました。
 温泉の名をつけた入浴剤は、成分だけでなく様々な要素をもとに作られていたんです。