放送内容

第1514回
2020.02.23
かがくの里・田舎暮らし の科学 場所・建物 食べ物

 荒れ果てた土地を切り開き、かがくの力で豊かな里山をよみがえらせる長期実験企画。それが、目がテン!かがくの里。去年の春から、長~い時間をかけて取り組んできた、ある企画!それは、かがくの里の食材だけで作る、しょうゆプロジェクト!10か月間、大切に熟成させたしょうゆが、ついに完成!
 さらに2年もの間、じっくり寝かせた、里のみそは?!
 今回のかがくの里は、日本人が愛してやまない、しょうゆ、みそスペシャルです!

里しょうゆの仕込み

 おととし収穫した、加工に向いた品種の大豆「エンレイ」は、大豊作で12.5kgも採れたので、去年4月、調理科学の専門家、露久保先生をお呼びして、その大豆でなにか作れるものはないか相談。そして、およそ10か月かかるという「しょうゆ造り」がスタート!

 露久保先生、しょうゆ作りに小麦が必要だといいます。しょうゆに甘味やコクを出すうえで欠かせないという小麦。実際、市販のしょうゆのほとんどに小麦が使われています。しかし、小麦をただ入れただけでは、甘味やコクは出ません。大事なのは、発酵させること。大豆や小麦を発酵させることで、おいしいしょうゆになるのです。
 大豆や小麦を“発酵”させるのが「種麹」というもので、いわゆる「麹菌」。麹菌はカビの一種で、生きた微生物。カビといっても、ヒトに役立つ働きをする、いいカビ!麹菌が、大豆や小麦の周りで増えていくと、大豆の主成分であるたんぱく質が、麹菌が出す酵素によって、旨味成分グルタミン酸などのアミノ酸に分解されます。これが、しょうゆの旨味!
 一方、小麦の主成分デンプンは、麹菌の酵素によりブドウ糖に分解されるので、しょうゆの甘みやコクにつながるワケなのです。

 それでは、自家製しょうゆ作り開始!
 まず、生の大豆を3倍量の水で20時間ほど漬けた後、これを茹でます。大豆が茹であがるのを待つ間、小麦を炒って、香ばしい匂いがしてきたら、ミキサーで粉砕!
 この小麦に麹菌を混ぜるのですが、ここでとっても大事なポイントが!
 麹菌が生きて活動できるのは、0℃から40℃まで。そのため、炒った小麦が40℃以下になるまで冷ましてから、麹菌を混ぜ合わせます。芯がなくなるまで煮た大豆も、40℃以下まで冷まし、麹菌を混ぜた小麦と合わせます。
 これを、煮沸消毒した清潔な布にくるみ、大豆や小麦に麹菌がついて繁殖するのを待ちます。麹菌が最も増える温度帯25℃から30℃を保つため、保温器に入れ、2日間置いておきます。果たして、うまく増えているのか?
 結果は大成功!

 麹菌がしっかりと増え、大豆や小麦のたんぱく質やデンプンを分解する準備はOK。ここに、塩分濃度18%という、かなり濃い塩水を入れます。塩水の作用とは?
 露久保先生によると、水があるので、発酵が促されます。そして味付け、腐敗防止の役割も。塩分控えめで造ると、腐敗もおこりやすくなってしまうそう。多くの菌は、塩分濃度10%以上では活動できず、死にます。しかし、麹菌の酵素は、塩分濃度18%程度までであれば、しっかりと働くことができるのです。発酵も腐敗も、たんぱく質の分解が起きていますが、人間に有害であれば『腐敗』、人間に有害ではなければ『発酵』なんです。
 このような状態を「もろみ」といい、麹菌などが働き、およそ10か月以上かけて、しょうゆになっていくはずです!

 最後に、水分がもれないように、また、空気が好きな雑菌が増えないように袋に入れ、ふたを閉めたら、「里しょうゆ」の仕込み完了です!

もろみの中での微生物の働き

 このあとは、1週間に1回ぐらい掻き混ぜて、発酵を促すのだそう。阿部さんが自宅で、もろみをかき混ぜることに。1週間に1回程度かき混ぜることで、発酵が均一になるのです!

 2回目のかき混ぜ。見た目にあまり変化はありませんが、発酵中のもろみの中では、様々な微生物が働いています。
 まず、麹菌が作り出す酵素が、たんぱく質やデンプンを分解し、アミノ酸やブドウ糖を作ります。しかし、麹菌自体は、塩分濃度が高いため死んでしまいます。それでも麹菌が作った酵素は、失われることなく分解を続けるので大丈夫!
 麹菌がいなくなると、塩に耐性がある乳酸菌が増えてきます。乳酸菌は糖から乳酸を作り、しょうゆの酸味の元となります。
 乳酸などが増えると、もろみの中は酸性に近づきます。ほとんどの菌は強い酸性の環境では増えることができないので、雑菌を防ぐことにもなるのです!
 しかし、強い酸性の中では乳酸菌も生きていけずに死んでしまい、今度は酸性にも塩にも強い、酵母が増えていきます。酵母は、糖分から微量のアルコールなど香気成分を作りだすので、どんどんとしょうゆに近い香りになっていくはず。
 仕込みから140日後。だいぶ色が濃くなっています。これは、もろみの中のアミノ酸と糖が反応し、メラノイジンという褐色の物質ができる「アミノカルボニル反応」によるもの!しょうゆに近づいている、なによりの証拠!
 仕込みから、およそ半年後。匂いはしょうゆ。では、味は?
 この時は、まだしょっぱさを強く感じますが、熟成が進めば塩味の角が取れ、まろやかになっていくはず。

「里しょうゆ」、完成!

 今年2月。阿部さんが10ヶ月仕込んだしょうゆを露久保先生に見ていただくと、熟成はうまくいったようです。もろみをさらしに入れ、しょうゆを絞っていきます。その絞り方が、この作業で一番大事なポイント!
 力を入れてしまうと、雑味や濁りとかも出てきてしまうので、もろみの重さで絞るのだそう。持ち上げると、ポタポタとしょうゆが出てきました!!
 阿部さんが10か月、手塩にかけて育てた集大成。里で獲れた材料だけで作った里しょうゆ、出来上がりました!
 ※7か月ものと塩分濃度は変わっていませんが、発酵が進み、旨味や甘味成分が増えたので、塩味を感じにくくなっているのです。これを『角が取れる』といいます。

みその現在

 2018年2月。かがくの里で採れた大豆を使い、みそを仕込みました。
 これは意外にカンタンで、茹でた大豆をすりつぶし、市販の米麹と塩を混ぜ合わせるだけ。

 ポイントは「みそ玉」と呼ばれる玉を作り、ツボに敷き詰めること!こうして空気がなるべく入らないようにしておくと、雑菌の繁殖を防ぐことができるのです。
 発酵の仕組みは、しょうゆと同じ。米麹についた麹菌の酵素が、大豆のたんぱく質をアミノ酸へ分解。米のデンプンをブドウ糖に分解するというもの。その年の11月。見事なみそに仕上がっていました!

 あれから、1年3か月。今、みそはどうなっているのか?
 1年3か月前と比べると段違いに色が濃くなっていました!これは、しょうゆの時と同じ、アミノ酸と糖が結び付き、メラノイジンという褐色の物質ができる、アミノカルボニル反応が進んだ結果!この反応で、香ばしい香気成分も生まれるため、おいしそうな香りが増していました!