放送内容

第1660回
2023.01.29
植物園 の科学 場所・建物 植物

 日本では見ることが難しい貴重な植物が一年中見られる!その場所こそ、植物園!厳しい環境で生き抜くために植物たちが身につけた独特な生き方とは!?そして、植物園のバックヤードへ。そこには、世界中の植物の花を咲かせるプロの技が!
 今回は、貴重な植物の宝庫植物園を科学します!

植物園の魅力に迫る!

 訪れたのは、大阪。今回、植物園を案内してくれるのは、咲くやこの花館、名誉館長の久山敦さん。日本最大級の温室を持つ、こちらの植物園。

 室内は4つの温室に分かれていて、それぞれ、熱帯雨林、熱帯花木、乾燥地、高山と、気温も湿度も全く異なる場所で育つ世界中の植物を一堂に見ることができるのです。 早速中へお邪魔します。まず初めの部屋は、熱帯雨林植物室。

 熱帯雨林は東南アジア、中部アフリカ、中南米に見られ、年間を通じて温暖で雨量の多い地域です。植物が所狭しと、生い茂る熱帯雨林の様子を再現。この日の部屋の温度は20度。湿度はおよそ80%に保たれています。
 高い位置に見える花は全て蘭。背の高い植物かと思いきや、木の幹にひっついています。土ではなく木や岩に根を付着させ生きる植物を着生植物と言い、3万種あると言われる蘭のうちおよそ70%がこれに当たります。樹皮の凹凸に添ってぴったりと根を張り、一度張り付いた根は簡単に剥がれません。

 剥き出しの根を通して木や岩を伝うわずかな水分や養分、空気中の水蒸気で育つことができるんです。養分を吸収するのは、一部の根。白くスポンジのようなもので覆われていて、水を吸収しやすく、紫外線などから根を守る構造になっています。咲くやこの花館では、樹皮の断片などに着生させ育てています。お祝いで贈られる多くのランも、よく見ると土には植えられておらず根があらわになっています。

 しかし、なぜこのような生き方をしているのでしょうか?
 久山さんによると、蘭というのは進化の過程で一番最後に出てきたもの。地面は他の植物で埋まっており、それでなんとか木の上で生活できるように進化したといいます。植物が生い茂る熱帯雨林で蘭は生き残るために、他の植物が少ない木の上や岩などに居場所を見つけたのです。

次に向かったのは、高山植物室。

 毎朝、ミストを噴霧して高山の霧を再現。昼はやや乾燥させ、日没後は湿度を上げて、緻密に高山の環境を再現。場所や季節をこえ、本来では同じ場所に存在することがあり得ない高山の植物を一度に見ることができるんです。
 高山エリアは背の低い植物が多いんですが、これは、背が高いと風で折れてしまうため背の低い個体が生き残ったから。
 さらに、背丈が低いのには他の理由も。実は冬の間、雪で守られているんです。積雪があった場合。気温がマイナス30度であっても、地表は0度、雪の中はマイナス3度程度に保たれていて、雪の下では植物は凍らず、生命が維持され、春を迎え花を咲かせるのです。館内では外からやってきた虫が花の蜜を吸っている姿も目にできます。

 次に向かったのは、熱帯花木室。

 熱帯、亜熱帯地域の花や実をつける植物を主に展示しています。見つけたのはバナナ。

 野生のバナナは私たちがよく知っているバナナとは違うんだそう。種がみっしりで、実を味わえるような果実ではないんです。私たちが食べているバナナは、突然変異で生まれた種がない株を受け継いできたもの。
 では、種がないのにどうやって増えるのでしょうか。大きく育ったバナナは、実をつけると枯れ脇から新芽が出て、成長しまた実をつけます。

 種以外でも株を増やすことができるのです。種のないバナナは、偶然見つけた産物を数千年もの間、絶やさず、大事に育ててきたものなんです。

 続いて向かったのは、乾燥地植物室。

 雨が少なく乾燥している砂漠や粒の細かい土で構成された乾燥地、土漠などの植物を展示しています。
 さまざまな形に進化を遂げたサボテン、水の少ない乾燥地で、どのように生き残ってきたのでしょうか。実は、雨の降らない過酷な時期でも生き延びるため水を体に蓄えていたのです。表皮が分厚いサボテン。内部に熱が通りにくく、40度をこえる土漠や砂漠でも内部はひんやりしているといいます。植物園では、地球上のあらゆる環境に適応した植物たちを目の当たりにできるのです。

世界中の植物を育てるバックヤードへ

 今回、特別に植物園に展示する植物を育てているバックヤードをみさせてもらいます。植物を展示している温室の横には、栽培用のハウスが立ち並びます。こちらでは、展示している植物のおよそ3倍の5500品種を育てています。美しい花をみてもらうため花を咲かせるバックヤードは重要な拠点なんです。
 まずは蘭を育てるハウスにお邪魔しました。蘭の栽培を担当している村上さんに話を伺います。ハウスの中は常に15度以上、湿度80%に保っています。野生では、多くの種が木の幹に張り付いている蘭。雨が降っても、水が下に流れ落ちるような環境に適応し進化したため、それほど多くの水を必要としません。この絶妙な水量を再現し花を咲かせるため、一鉢ずつ根の湿り具合を確認し、またその日の天気などで根を腐らせないベストな水の量をあげるのです。

 続いて話を伺ったのは、乾燥地植物室を担当する上杉さん。ぎっしりとサボテンが置いてあります。サボテンの花が咲くのは基本的に年に1回。サボテンが育つ土漠には、四季があり夏には気温が40度を超え、冬には、マイナス10度に下がることも。 そして夏と冬の間には短い雨期があるのです。過酷な環境でエネルギーを温存させるため夏と冬は眠りに入るので、この時期は水を与えません。そして、生育期の春と秋は、しっかりと水をあげます。多くのサボテンはたっぷりの日光と水やりのタイミングで綺麗な花が咲くんです。

 最後に向かったのは、人工開花調整室。お話を伺ったのは、季節外れの花を咲かせるプロ、坂本さんです。開花調整室では三つの部屋を通して温度を少しずつあげることで季節の花をずらして咲かせることができるんです。
 北海道で春にしか咲かない、クロユリ。咲くやこの花館では、1年中見ることができます。凍らせても、生命を維持できるクロユリ。球根が土の下に眠っています。次の部屋では、昼間は7度、夜は4度、と雪解け時期の気温で2週間ほど過ごします。さらに次の部屋では、昼は12度、夜は7度と温度をさらにあげて、15日間過ごします。徐々に温度を変えていくことで冷凍庫で眠っていたクロユリが蕾をつけ綺麗な花を咲かせるのです。このような開花調整技術によって、クロユリのような花も一年中見ることができるのです。

植物園が行う実験とは!?

 さらに、植物の魅力を伝えることもスタッフの大切な仕事。そのために、植物を使ったさまざまな実験で植物の知られざる一面を明らかにしているのです。
 そのうちの一つを体験させてもらいます。
 やってきたのは食虫植物のコーナーにあるウツボカズラ。袋の中には酵素を含む消化液が入っています。

 中をのぞいて見ると虫の姿が!
 園内には外からやってきた昆虫も生息していて、野生に近い形で虫を捕えている様子を観察できるんです。食虫植物がみられる熱帯雨林は、有機物の分解速度が早いうえに雨で養分が流れるため土に養分はほとんど残りません。そのため、食虫植物は栄養を補う手段として虫も利用しているのです。

 ここで、食虫植物の消化液をごちそうになります。蓋がしまっている間はクリーンなので飲むことができるんです。東南アジアでは、おねしょに効くと言われ飲まれているそう。虫を溶かす酸性の液体。そのお味は?…結構青臭い。
 食虫植物の新たな一面を知ることができました!