放送内容

第1472回
2019.04.21
どぶろく の科学 食べ物

 独特の飲み口がうけており、お肌にもいいというどぶろく。実は、最新の研究でもどぶろくには様々な可能性があることが分かってきました。そこで、実験。1週間どぶろくを飲み続けてみました。その結果は!?
 どぶろくならではの作り方にある秘密が!そこで、渡辺裕太さんがどぶろくを作る酒蔵へ!さらに、お酒を飲めない人でもどぶろくの成分が摂取可能に!新しいどぶろく料理をご紹介!
 今回の目がテンはどぶろくの科学です!

どぶろくってそもそも何?

 今回、訪ねたのは、実際にどぶろくを作っている酒蔵。案内してもらうのは、酒造りの責任者、杜氏の小野さん。気になるどぶろくの作り方ですが、まずはどぶろくがどんなものか知るため試飲することに!ビンのふたを開けると、なんと炭酸飲料のような音がし、注いでみると炭酸の泡が出てきます。飲むと口に入った瞬間、甘みと炭酸を感じられました。また、舌にザラッと残る、舌触りも楽しめます。
 さて日本酒とは違うどぶろくの感覚は、どうやって生まれるのでしょうか?
 酒造りが行なわれるのはとても寒い冬から春にかけての早朝。原料となるのは日本酒造り専用のお米、酒米。まずは酒米を洗い水を吸わせます。次にお米を蒸し上げます。お米を炊かずに蒸すのは、米粒をちょうどいい柔らかさにするため。酒造りに適した水分量があるんです。

 蒸しあがったお米は機械でほぐされ、蔵人はお米の温度が冷めないように、走って麹室にお米を運び込みます。
 麹室の中では、先ほど蒸されたお米が40℃程度に調整するために並べられます。そこへふるいで粉を振りかけます。振りかけたのは麹カビ。聞こえが良くないですが、みそやしょうゆ造りにも使う非常に大事なもの。そして、麹カビの種を振りかけられたお米を、隣の部屋で2日ほど寝かせます。2日たったお米を見てみると、寝かせる前のお米よりもかなり白くなりました。

 味には何か違いが出るのでしょうか?
 まずは、振りかけたばかりのお米を味わうと、もちもちとすごい弾力。そして、そして2日かけて麹カビが成長したお米を食べると、噛んだ瞬間にふわっと甘みと香りが立ちます。
 噛んだ瞬間に甘いと感じたのには理由がありました。お米のデンプンは麹菌のエサとなりますが、そのままでは麹菌にとって大きすぎるのですぐに食べられません。そこで、麹菌が何種類かの酵素を出します。するとその酵素が、デンプンをどんどんバラバラにしていき、菌が食べやすい一番小さい糖、ブドウ糖の大きさにします。この工程を糖化といいます。糖を直接食べたのと同じような状態になるので、口に入れた瞬間に甘いと感じたんです。

 そして、次に向かったのは、酒母室。先ほど作った麹と水と蒸米を混ぜて、次に活躍してくれる第二の微生物を大量に培養します。甘くなったお米と水、そこにさらに足すのが酵母菌。酵母菌の役割はアルコールを生み出すこと。酵母は麹が生み出した糖をエサにします。糖を食べて、アルコールと炭酸ガスに変えながら、どんどん増えていきます。この工程が発酵です。
 こうしてできたのが酒母と呼ばれるお酒のもと。

 この酒母が入ったタンクに、蒸されたお米を入れていきます。タンクの中では麹がお米を糖に変える糖化と、その糖を酵母がアルコールに変える発酵が同時に起こっています。糖化と発酵が同時に起こる、他のお酒にはない日本酒ならではの作り方。

 実はこの工程こそが、健康に効果的な成分の1つを生み出していたんですが、それは後ほど。
 お米と麹を足しながら1ヶ月程度タンクの中で発酵を進め、そのまま瓶詰するとどぶろくは完成です。

 ちなみにこのどぶろくを、透明になるまで機械で搾って漉したものが日本酒になります。そして、搾ったあとに残るかすが酒粕。どぶろく作りには搾る工程がないため米粒や麹、酵母がそのまま残っています。これが様々な健康効果が望めるもう1つの理由だといいます。

どぶろくパワー・レジスタントプロテイン

 どぶろくは漉さずに瓶詰めするため、酒粕がそのまま入っています。その酒粕成分について日本酒の研究を行う金沢工業大学の尾関教授に聞いてみると、レジスタントプロテインという難消化性の消化されにくいたんぱく質が豊富に含まれているといいます。レジスタントプロテインは、油の吸収を包み込むことによって阻害する効果があります。
 そこで、こんな実験。レジスタントプロテインを粉末状にしたものと、別の食物繊維であるセルロースの粉末を用意します。ラー油を垂らした水の中に、それぞれ入れてよくかき混ぜます。

 ラー油が浮かんでいた上の部分を見てみるとセルロースと混ぜたラー油は分離したままでしたが、一方レジスタントプロテインを混ぜたものは、レジスタントプロテインが取り囲んでラー油をバラバラにしてまじりあっています。この機能によって食事の際にレジスタントプロテインをとると脂質の吸収をおさえ、結果的に血中の中性脂肪や悪玉コレステロールの値を下げるという研究結果が出ているんです。

どぶろくパワー・αーEG

 尾関先生によると、どぶろくにはお肌の状態を改善できる効果があることが分かってきているといいます。そこで、尾関教授監修のもと本当に効果が出るのか実験!協力してもらったのは都内の皮膚科クリニック。普段からアルコールは飲むものの、日本酒はほぼ飲まないという4人の男女に集まってもらいました。
 ちなみにお肌の悩みがないか聞いてみたところ、たるみやしわが気になるそう。そこで、お肌の現状を知るために、水分、油分の量、キメの細かさ、コラーゲン量を測定。そして、どぶろくを渡し1日にコップ1杯、180ml程度を、普段のアルコールに置き換えて飲んでもらいます。どぶろくを飲む以外は今まで通りの生活をおくってもらい、念のため各自1日はどぶろくの摂取を控えます。
 そして、1週間後再びクリニックに集まってもらいました。
 70代の女性の肌をマイクロスコープで見てみると、摂取前の肌は、のっぺりとしたいわゆるたるんだ状態でしたが、摂取後には三角形の模様が見えるようになりました。

 この三角形がキメの細かさ。しわではなく、むしろ、保水量の多いハリのある肌の証拠だといいます。肌のキメを数値化したものも31から53へと上昇していました。全体では4人中3人が改善した結果に。
 さらに水分量を測定。すると、こちらも73から86へとアップしていました。全体でも4人中3人の水分量がアップ。クリニックの廣瀬先生によると、コラーゲンが増えると水分を保持できるといいます。
 そこで、測定したコラーゲン量を見てみると、4人中2人が肌のコラーゲン量がアップしていることが分かりました。
 数値が上がった女性の皮膚の中のコラーゲン量を、超音波を使って見てみます。実験開始前は表面付近のコラーゲンはまばらな状態。しかし、1週間後の画像を見てみるとまんべんなく広がるコラーゲンを観察することができました。さらに、皮膚の奥で新しいコラーゲンが生まれているのも分かります。

 同じく数値が上昇したもう1人の画像からも、同様の傾向を見ることができます。コラーゲンは皮膚の細胞同士の間にある組織で皮膚を支えています。そのコラーゲンを作る繊維芽細胞という細胞が弱るとコラーゲンが少なくなります。すると保水量が減り、キメが粗くハリのない状態になってしまいます。
 今回なぜ、コラーゲン量が増えたのか?尾関先生に聞いてみると、どぶろくに含まれるαーEGという成分が直接影響していると考えられるといいます。
 αーEGは日本酒の主要成分、味を決めている成分の一つ。例えばワインとかビールでは発酵法が違うためαーEGは含まれていないそうです。
 先程酒蔵で見たように、日本酒はお米が糖になる糖化と、糖がアルコールになる発酵が同じ容器の中で同時に起こります。糖化とアルコール発酵が同時に行われることによってαーEGが製造できるんです。アルコールの中ででんぷんが糖に分解されると糖の分子がアルコールとくっつくことがあります。それがαーEG。

 尾関先生は、繊維芽細胞に直接αーEGを振りかけると細胞の数が増えコラーゲンの生産量が上がることを細胞実験で明らかにしました。αーEGは搾られた液体側に入るので日本酒には入っていますが、酒粕にはあまり入っていません。逆に、酒粕には先ほどのレジスタントプロテインが豊富に入っていますが、日本酒にはほとんど入っていません。
 今回、尾関先生にどぶろくの成分を分析してもらったところ、αーEGとレジスタントプロテイン、その両方がコップ1杯で有効量摂取できることが分かりました。

 どぶろくは日本酒と酒粕のいいとこどりができる飲み物だったんです!
 ちなみに、個人差はありますが、1日1合、180ml程度であればアルコールの過剰摂取にならないとされています。そして、その量でも効果が実感できるということが分かりました。
 また、αーEGはしばらく線維芽細胞の中に蓄積されるらしく、飲むのをやめても4週間は効果がもつそうです。

どぶろく 応用編

 調理の専門家、露久保先生とどぶろくを料理に生かす方法を考えてみました!露久保先生によると、どぶろくに含まれているレジスタントプロテインやαーEGは加熱をしても効果が変らないという成果が分かっているとのこと。そこで、加熱をして且つ体に良い、どなたでも食べられる料理をご紹介します。
 今回はどぶろくを使った、どぶろく豚汁。
 どぶろく豚汁の材料はこちら。

水 400ml
かつお節 8g
豚肉 160g
大根 1/4本
人参 1/2本
ゴボウ 1/2本
里芋 2個
みそ 適量
こんにゃく 1/2枚
長ネギ 1/2本

 鰹節で出汁をとり、豚肉・大根・にんじん・ごぼう・里芋・こんにゃく・長ネギ・みそ、と、具沢山!そして忘れてはいけないのがどぶろく。具材を切って出汁をとったら、まとめて火にかけます。ここでどぶろく。しっかりアルコール分を飛ばすため、最初の段階から入れて煮立てていきます。
 後は、アクを取りながら野菜が軟らかくなるまで煮ます。具材に火が通ったら、味噌を溶き入れて、どぶろく豚汁の完成です。