ワシントンナショナルギャラリー展

新国立美術館

vol.2


さて、「コロンビア特別区」についてのお話する前に、ワシントンの位置を確認しておこう。

まず、頭の中に日本を中心とした世界地図をイメージしていただきたい。そして宮城県仙台市に心眼を定め、そこから太平洋を渡って、ひたすら視線を右へ右へとスライドさせる。するとリアルな地図上では、アメリカ合衆国を横断した東海岸に、大西洋にそそぐポトマック川が見えてくるのだが、この中流付近に位置しているのがワシントンだ。

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成田からワシントンまでの距離は、直行便で13時間ほど。もっと近いのかと思っていたが、実はヨーロッパに行くのとあまり変わらない。また同じアメリカ東部に位置するニューヨークとの距離は約360kmで、これはほぼ東京~名古屋に相当する。

……と、こんなようなことを踏まえた上で、「コロンビア特別区」の話である。

前回も触れたように、ワシントンの正式名称は「Washington, District of Columbia」、略して「Washington D.C.」という。「Washington」は、もちろん初代アメリカ大統領、ジョージ・ワシントンからとっており、「District」は、行政、司法、教育など、「ある特別な目的を持つ地域」のことを言う。そして「Columbia」は、アメリカ大陸の最初の発見者コロンブスの名を、地名化した名称であった。

国の礎を築いた2人の偉人の名前を冠した首都、「ワシントン、コロンビア特別区=ワシントンDC」。

なぜ、ワシントンはちゃんとした名前で、コロンブスは「C」扱いなのか? そんなギモンはさておいて、『地球の歩き方’09~‘10 ワシントンDC』(1,700円也)によると、ワシントンDCの最大の特徴は、「全米50州のどこにも属さない、連邦政府の直轄地」であるという。つまりアメリカの首都は、経済や文化の中心をニューヨークに任せ、ひたすら政治の中心地として機能する、世界でも珍しい都市なのであった。

1800年、この地に首都が移って以来、アメリカ(20世紀後半からは世界)の政治の舞台であり続けてきたワシントンDC。市販のガイドブックを眺めるだけでも、ここには、国会議事堂をはじめとする行政機関の他、訪れる者に「偉大なるアメリカ約230年の歴史」を印象づける、大規模なメモリアルが非常に多いことがよくわかる。
たとえば、独立戦争の英雄をたたえたワシントン記念塔や、奴隷解放の立役者リンカーンの彫像が置かれたリンカーン記念館、そして祖国や世界平和のために命を落とした兵士たちの記念碑など……。どうやらワシントンDCには、アメリカ人の魂を熱く揺さぶる歴史や遺産が、ギュッとつまっているようなのだ。


事実、日本在住のアメリカ人によると、彼らにとってワシントンDCとは「一生に一度は訪れたい」、江戸時代におけるお伊勢さまのような聖地らしい。観光客も、外国人はもとより、全米各地から訪れる自国人が多いという。

そんなアメリカの魂のド真ん中に、自分が行くことになろうとは……。

というわけで、次回からはいよいよ、ワシントンDCのレポートです。

アート・ライター。現在「婦人公論」「マリソル」「Men’s JOKER」などでアート情報を執筆。
アートムック、展覧会音声ガイドの執筆も多数。