ワシントンナショナルギャラリー展

新国立美術館

展示会紹介

ごあいさつ

vol11


さて、いよいよ来週始まる「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」。前回はナショナル・ギャラリーの歴史を紹介したので、今回は館内の様子とコレクションを、少し紹介してみよう。

まず、ワシントン・ナショナル・ギャラリーは、1941年にオープンした「西館」と、1978年開館の「東館」、そして西館と道を隔てた場所にあり、屋外に有名作家の彫刻が並ぶ「彫刻の庭」の3つのエリアからなっている。約12万点という収蔵品のうち、「常設展示コレクション」に指定されている作品は2010年11月現在2334点。そこから修復中や貸出中のものを除いた作品を、通年363日、無料で公開している広大な美術館である。

正面玄関の巨大な列柱が印象的な西館は、ジェファソン記念館などを手掛けたジョン・ラッセル・ポープの建築。メインフロア内部は、「ロタンダ」という噴水のある円形ロビーを中心に、展示室が両翼へと広がっていく一見単純な構造だが、地図にあげたように部屋が何層にも重なっているので、夢中で鑑賞するうちに迷ってしまう人も多いようだ。


12世紀から近代までの絵画と彫刻を展示公開している西館。

随一のお宝は、レオナルド・ダ・ヴィンチの《ジネブラ・デ・ベンチの肖像》である。ナショナル・ギャラリーのパウエル館長が「美術館に何かあったら、真っ先に持って逃げる」というこの作品は、後に《モナリザ》を描くことになるルネサンスの巨匠が、まだ20代の頃に制作した、西半球唯一のダ・ヴィンチ作品だ。

甘美なるロココの絵画や、イギリスの風景画、そしてアメリカ人の画家ホイッスラーが1863年の落選展に出品して、マネの問題作《草上の昼食》とともに批判を浴びた《白のシンフォニーNo.1:白衣の少女》……、と様々な名品がある中で、とくに日本人が大喜びしそうなのは、17世紀オランダ絵画のセクションである。ここではレンブラントやフランス・ハルスはもちろん、《秤を持つ女》《手紙を書く女》《赤い帽子の娘》などフェルメールの作品が、小部屋にまとめて展示されている。フィリップス・コレクションの回でも書いたように、アメリカの美術館は混雑に関してストレスフリーなところが多かったが、米国ではフェルメール自体あまりメジャーではないようで、この小部屋はいつもガラガラ。同じようなフェルメール好きの先客さえいなければ、《秤を持つ女》の前で何時間でも至福の時を過ごせるというわけだ。

また、ナショナル・ギャラリーの学芸員が「ここの印象派は、世界で一番質が高いかも」と言うように、印象派を中心としたフランス近代美術の充実ぶりもハンパではない。なぜなら世界で一番早く印象派を評価したのはアメリカ人だったことから、ナショナル・ギャラリーには、当時の富豪たちがリアルタイムで購入した活きのいい印象派絵画が収蔵されているのである。

この印象派を含めたフランス近代絵画のコレクションを数多く寄贈したのが、 美術館の生みの親アンドリュー・メロンの子供たち、エルサ&ポール姉弟や、ピカソの薔薇色の時代の大作《サルタンバンクの家族》など素晴らしいコレクションが有名なチェスター・デールなど。とにかく画集にもよく取り上げられる有名作品が多いので、ここのフランス近代美術を見た人は、「あの名画も、この作品も、ナショナル・ギャラリー所蔵だったか!」と驚かされることだろう。

この西館の地下からコンコースでつながっているのが、重量感のある近代建築が威容を誇る東館である。建築家のイオ・ミン・ペイは、一般にはルーヴル美術館のガラスのピラミッドを設計したことで知られている。が、彼はそれより前に、ナショナル・ギャラリーの東館でピラミッドをつくっていた。パウエル館長は、「うちの美術館でピラミッドを見たフランスのミッテラン元大統領が、直接イオ・ミン・ペイに連絡して、同じものをルーヴルにつくらせたんだ」と冗談めかして言っていたが、ことの真相は闇の中だ。

この東館では、主に企画展示と、マティスほかの近代&20世紀美術の常設展示が行われている。現代美術の常設展は頻繁に展示替えがあるため、ここで見ておくべき特定の作品を挙げることはできないが、東館の各所に配置されたダイナミックな現代美術の大作は圧巻である。とくにロビーの吹き抜け部分を巨大なモビールで飾るアレクサンダー・カルダーは、そのほかにも特別室があり、作品とその影が光の中で戯れる、夢のように儚くかわいらしい空間をつくっていた……。

と語っていくとキリがないが、とにかく1日中ナショナル・ギャラリーを歩き回るだけで、かなりのダイエット効果が期待できそう……、な広大な美術館なので、旅の日程に余裕があれば、ぜひ数日通って作品を堪能していただきたい。しかし、ミュージアムショップでお土産も買わなければならないし、限られた時間内で楽しむならば、やはり美術館に置かれた「West(East) Building Highlights」などの見どころ案内を参考に、観たい作品を事前に絞り込んでおくことが、一番の美術館攻略法といえるだろう。

というわけで、次回はいよいよ「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」開幕レポートです。


アート・ライター。現在「婦人公論」「マリソル」「Men’s JOKER」などでアート情報を執筆。
アートムック、展覧会音声ガイドの執筆も多数。