ワシントンナショナルギャラリー展

新国立美術館

展示会紹介

ごあいさつ

vol10


さて、今までスミソニアン協会に帰属する「モール」周辺のミュージアムを紹介してきたが、展覧会を2週間前に控えたところで、いよいよ真打ち「ワシントン・ナショナル・ギャラリー」の登場だ。

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以前も書いたように、「モール」とは東の国会議事堂から、西のリンカーン記念館まで、約3㎞にわたって続く広大な芝の広場である。その東側の国会議事堂寄り、前回ご紹介した「国立航空宇宙博物館」に向かい合うように、ドーンと横たわる巨大な美術館が、「ワシントン・ナショナル・ギャラリー」だ。

当ホームページの「ごあいさつ」にもあるように、ナショナル・ギャラリーは、イギリス大使も歴任したひとりの大富豪、アンドリュー・メロンの壮大な夢から始まっている。それは「ロンドンにナショナル・ギャラリーがあるように、我が国にも首都にふさわしいミュージアムをつくりたい」というもので、メロンはその夢を実現すべく、自らのアートコレクションと美術館設立のための資金を、「美術館には自分の名前ではなく、国家の名前をつけるように」という条件付きで、連邦政府に寄贈した。

この「アメリカ史上最大の、個人から国家への贈り物」をもとに、1941年、オープンしたのが今のワシントン・ナショナル・ギャラリー西館だ。記念すべきオープニングの日には、4年前に他界したアンドリューの代わりに息子のポール・メロンが、時の大統領ルーズベルトと並んで、美術館の開館を高らかに宣言した。

その頃日本は「欲しがりません、勝つまでは」の時代である(正確には、この標語が採用されたのは、翌年の1942年)。ふとそんなことに気づいて、当時「世界最大」と言われたこの新古典主義風の美術館建築を見上げると、「どうして、こんな国と戦争しちゃったんだろう?」と、両国の国家的余裕のあまりの違いに呆然としたりするわけだ。

さて、現在、ナショナル・ギャラリーの所蔵作品は約12万点。ちなみに、よく「質量ともに匹敵する」とひきあいに出されるパリのルーヴル美術館が30万点以上……、と聞くと「あれ、ナショナル・ギャラリーのコレクションって、なんか少ない?」と思ってしまうかもしれない。しかし、世界各国の美術品や文化財を百科全書的に収蔵しているルーヴルと違い、ナショナル・ギャラリーはその所蔵作品を、「欧米の」絵画を中心とした美術作品に限っている。これこそ美術館名が「ナショナル・ミュージアム」でなく、「ナショナル・ギャラリー」と名付けられた所以であるわけだが、それを考えるとコレクションが「12万点」というのは素晴らしい、ということになるだろう(次回紹介するが、その質もスゴイ!)

しかも、これらのコレクションが、古くはアンドリュー・メロンをはじめとする大富豪(当ホームページ「珠玉のコレクションを創った人々」参照)から、新しくは、現在も上映中(2011年5/26現在)の映画『ハーブ&ドロシー』の主人公となった元郵便局員まで、一般市民の寄贈で成り立っているというから驚くばかり。

これら作品収集の他、展示プログラムや教育プログラム、また建物の改修工事など、ナショナル・ギャラリーで行われている様々なプロジェクトは、すべて「プライベート・パブリック・パートナー・シップ」という、個人の基金で賄われている。

ナショナル・ギャラリーのパウエル館長によると、「職員の給料や、建物のメンテナンス費用は連邦政府から出ているけどね」ということだが、「ナショナル」なギャラリーでありながら、自治権があるから「ルーヴルや大英博物館の様に、完全に国に仕切られているわけではないし、プライベート・ファンドで運営しているところも、スミソニアンとは違った」ユニークな点だそうである。

どちらにしても、「芸術関係は市民に任せた!」と文化を司る官庁を置かない、アメリカならではのシステムだ。

そしてもちろん! 入場料はすべて無料。どれだけのお宝を、来館者はタダで見ることができるのか? それは次回のお楽しみである。


アート・ライター。現在「婦人公論」「マリソル」「Men’s JOKER」などでアート情報を執筆。
アートムック、展覧会音声ガイドの執筆も多数。