現地レポート

「青黒的倶楽部世界杯2008〜世界基準への挑戦(2)〜」

文/下薗 昌記

2008.12.13

ガンバ大阪にとっての大会初戦となる14日の準決勝の対戦相手は、開幕戦でワイタケレを下したアデレードに決まった。「二敗しているので必死に来るはず」(山口智)。「やりやすい部分もやりにくい部分もある」(遠藤保仁)。ACLの決勝では二戦合計で5対0と力の差を見せつけられたことでリベンジに燃えるアデレード戦を控えた13日の前日会見で、西野朗監督とチームの柱となる遠藤保仁が異口同音に口にした言葉がある。それは「ガンバのスタイル」。

アデレードとの再戦で幕を開けるクラブのワールドカップで、チームが目指すのは昨年の浦和レッズが成し遂げた「世界三位」でもなければ、単にマンチェスター・ユナイテッドなどの強豪と顔を合わせることではない。無論、結果として好成績を残したり、欧州王者との邂逅を果たしたりすれば、西野監督も「クラブのワールドカップで一勝を上げられれば、相手がどこであれ素晴らしいこと」と認めるように一定の満足感を得るのは間違いない。

ただ、大阪の雄が世界の檜舞台で目指すのは、あくまでも身上とする攻撃サッカーを貫き通すことだ。

武士道とは死ぬことと見つけたり――。今年のACLで見せたような勝負強さも持つ一方で、ややもすると従来のガンバ大阪は勝敗を追求するためだけの現実主義を嫌う傾向がある。「もちろん、勝つことも求めているけど、やはりスタイルを崩さないことが大事なので」と山口智はチームの総意を代弁する。

華麗なパスサッカーは今や、チームの代名詞でもあるが7年目を迎えた西野体制で、当初からそのスタイルが構築されていたわけではない。「選手に応じて方向性を決める」(西野監督)。時に前方の大型FWにクロスを送り込む手法や、ブラジル人の個の力を重視する戦い方など試行錯誤を繰り返したシーズンを経て、完成形に近づきつつあるのが「西野ガンバ」なのだ。

日本人監督として初めてクラブのワールドカップに挑む名将の自信は、前日会見でも滲み出た。ACLの決勝では力の差を見せて2勝しながらも、三度目の対戦となるアデレードについては「ACLとは違うアデレードが出てくる」と慎重な姿勢を崩さなかった西野監督も、地元紙「アデレード・ナウ」の記者による「勝って当たり前と思われている中、負けることへの怖さはあるか」との質問で一気に「臨戦モード」に突入。

「それはあなたからのプレッシャーか?ACL決勝よりもさらにいいパフォーマンスを出せる状態でもあるので、そういう結果(負け)を全く考えていないし、できれば早い段階で次のステージ(準決勝)のゲームプランを立てたい」(西野監督)。挑発に対して挑発で応じ、あえて準決勝を意識する発言をして見せた指揮官に刺激されたわけではないだろうが、左横に座った遠藤もいつもの淡々とした発言から一転して、大会への意気込みについては「優勝を目指して頑張りたい」。同時に、明日から始まる世界との戦いでも背番号7は「今までやってきたことをそのまま明日もぶつけたい。状況の中では回される時間もあるだろうけど、スタイルを崩す気はない」とキッパリ。

ガンバ大阪に引き続いて行われたアデレードの会見で問われた「ガンバ大阪には余裕が見えたが」という質問に対して、ヴィドマー監督も負けてはいなかった。「我々より、むしろ相手に重圧がかかっている。というのも二試合計で5対0で勝ち、当然ガンバが勝つと思われているからだ」と精神的な優位性を強調して見せる。

ただ、両監督の余裕の真偽は、この日あった公式練習で見て取れた。

午後4時から会場となる豊田スタジアムで行われた一時間の練習も、冒頭15分のみ公開のアデレードとは対照的にガンバ大阪は完全公開。時折笑い声も響き渡るリラックスムードの中で再確認されたのが、現在の「スタイル」を構築する上で欠かせないプレッシングの徹底だ。

ガンバ大阪が「二度あることは三度ある」を体現するのかアデレードが「三度目の正直」をつかみ取るのか――。その答えが14日夜、豊田スタジアムで出されることになる。


●下薗 昌記(しもぞの まさき)・・・1971年大阪市生まれ。ブラジル代表とこよなく愛するサンパウロFCの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーにかかわりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。全国紙記者を経て、2002年にブラジル・サンパウロ市に居を構え、南米各国でのべ400を超える試合を取材する。2005年8月に一時帰国後は、関西を拠点にガンバ大阪やブラジル人選手、監督を対象にサッカー専門誌や一般紙などで執筆。日本テレビではコパ・リベルタドーレスなど南米サッカーの解説も担当する。