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新しい時代を担うことになった新興市民階級は、古代ローマの社会にならって、普遍的かつ規範的なものを強調し、合理的な理性と倫理観で社会を変革しようとしました。したがって美術、とくに絵画においても、17世紀のバロック美術の大げさな身振り、あるいは18世紀のロココ美術の軽薄さや官能性を否定し、ギリシア・ローマの神話や英雄伝などに主題を求め、古代の美を規範として、すべての人にとって理想的で普遍的な美を求めました。

絵画の分野において、新古典主義を主導したのがダヴィッドです。古代美術にならった英雄主義的倫理、色彩に対する線描の優位を主張するダヴィッドの絵画理論はその後の保守的絵画、アカデミスムの原理となりました。ダヴィッドは、一方でジャコバン党員、国民議会議員をつとめ、ナポレオン帝政時にはその主席画家となるなど、政治の世界においても大きな力を持つことになりました。
ダヴィッド
《シャルル=ルイ・トリュデーヌ夫人》
©Photo RMN‐Arnaudet
世紀初頭に隆盛を誇った新古典主義は、ナポレオンの失脚の後、その主導者ダヴィッドがベルギーに亡命し、急速に勢いを失わざるを得ませんでした。その後退を食い止め、再興させたのがアングルでした。ダヴィッドの新古典主義的絵画が厳格、現実的で男性的であったとすれば、アングルのそれは、師の様式を基本的に踏襲しつつも、優美、空想的で女性的な要素を取り込んだ斬新さがありました。アングルは型にはまりがちであった新古典主義に、ロマン主義との格闘の中で得られた新しき息吹を吹き込むことによって、それを再生させたのです。
アングル
《スフィンクスの謎を解くオイディプス》
©Photo RMN‐R. G. Ojeda