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ナポレオンの失脚、それに続くダヴィッドのベルギー亡命は、新古典主義に致命的な打撃を与えました。それに対抗して生まれたのがロマン主義です。ロマン主義は、新古典主義が求めた普遍的な美に対し、個人を尊重し、型にはまった美を尊重せず、個人の感情や感動を自由に表現しようとしました。その様式は、激しく動的な構図を好み、色彩も強烈なものが使われ、題材においては中世のキリスト教美術や異国の風俗も好んで取り上げられました。


ジェリコー《賭博偏執狂》
©Photo RMN‐H. Lewandowski
ロマン主義の端緒をひらいたのがジェリコーです。夭折の画家ではありますが、短い画業のうちにはロマン主義絵画が成しえた多くの成果を見ることができます。情熱的な画家であったジェリコーは、古典主義とは対照的な不安定な構図や激しい色彩を好み、主題も同時代の社会的事件を描き、人間に対しても病的なものへの興味を通じて、精神を病んだ人物の深層をえぐり出す肖像を描いています。
ジェリコー没後、ロマン主義の旗手となったのがドラクロワです。彼もまたアカデミックな絵画様式には共感を覚えず、ルーヴル美術館で模写したルーベンスやヴェネチア派の絵画からダイナミックな構図や色彩の豊かさを学ぶとともに、年長の友人であったジェリコーの絵画に導かれてロマン主義に自らの活路を見出しました。
ドラクロワ《オフィーリアの死》 ©Photo RMN‐G. Blot
ダンテ、シェイクスピアなどの文学作品に想を得た、強烈な色彩によるドラマティックな構図を特徴とする作品は、近代絵画の先駆となり、やがて世紀後半に登場する印象主義の画家たちにも大きな影響を与えました。